パワハラについて、改めておさらいを

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パワハラをめぐる現状

社会人としてすでに働いていらっしゃる方、もしくはこれから社会に出て働こうとする学生の方で、「パワー・ハラスメント」(以下「パワハラ」)という言葉を聞いたことが無い方はほとんどいらっしゃらないと思います。

数年前、初めて「パワハラ」という言葉がマスメディアに取り上げられた時には、主に使用者側から

この程度の言動がパワハラ扱いされるのか

仕事は辛くて当たり前、こんなことまで役所に口出しされては現場は立ち行かくなる

といった言葉が多く出されていたように記憶しています。しかし、「パワハラ」はその後も死語となることなく、世間に広く浸透していきました。今や、職場の問題を象徴する言葉として、「セクハラ」に比類するほどの浸透度合いと言って差し支えないと思います。

昨年度、全国の都道府県労働局で受け付けた総合労働相談において、初めて「いじめ・パワハラ」に関する相談件数が「解雇」の相談件数を上回りました。「解雇」の相談は、それまで長年にわたって受付件数トップだったのですが、昨年度は初めてその座を明け渡すことになったのです。この事は、「パワハラ」という言葉がいかに広く世間に浸透していたかを、端的に象徴する出来事ではないでしょうか。

労働相談の現場では、現在でもパワハラに関するご相談を多く承ります。様々な相談者から様々なお話をお聞きしていく中で私が感じたのは、以下のような感想でした。

現在の状況下でも、パワハラなど一切気に留める様子も無く傍若無人な言動を繰り返す上司が多く存在する一方、「パワハラ」という言葉に過敏に反応してしまい、部下への指導を躊躇してしまう上司も少なくない。また労働者側も、業務上の適切な範囲と思われる上司の言動に対して「パワハラ」のレッテルを張ってしまうケースも多い。言葉自体の浸透度は裏腹に、定義については労使ともに正しい理解が広まっていないのではないか…。

そこで今回は、「パワハラ」とはどういう概念なのか改めて考えてみることにしましょう。

パワハラの定義

厚生労働省は、「あかるい職場応援団」という特設サイトを開設し、そこでパワハラ問題を大々的に取り上げています。

そのページの中で、パワハラの定義が紹介されています。こちらによると、以下の行為が「職場のパワー・ハラスメント」に該当するのだそうです。

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

お役所言葉の宿命といいますか、抽象的なあいまいな言葉が並んでいるため、この定義を読んだだけでは具体的にどのような行為がパワハラに該当してしまうのか今一つハッキリしません。

そこで、この定義を踏まえた上で、パワハラに該当する可能性の高い行為として以下の6つの類型が挙げられています。

  1. 身体的な攻撃(暴行・障害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・ひどい暴言)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずれ・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要な事や遂行不可能なことの強制)
  5. 過小な要求(業務上の合理性無く、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること)
  6. 個の侵害(私的な事に過度に立ち入ること)

以上のどれかに当てはまるようなら、その行為はパワハラであるとされる可能性が高いと言えます。

ただし、だからといって上記の6類型に該当する行為が全てパワハラとされる訳では有りません。「あかるい職場応援団」のページでも以下のように書かれています。

1.は、業務の遂行に関係するものであったとしても、「業務の適正な範囲」に含むことはできません

2.と3.については、通常、業務の遂行に必要な行為とは想定できませんので、原則として「業務の適正な範囲」を超えるものと考えられます

4.から6.までは、業務上の適正な指導との線引きが難しいケースがあります。こうした行為について、何が「業務の適正な範囲」を超えるかは、業種や企業文化によって違いが生じます。また、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても、判断が左右される場合があるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望まれます。

要するに、「業務の適正な範囲」の指導であったり、業務の遂行に必要な行為であれば、「パワハラ」には該当しないのです。

具体的な例を上げると、「社員に対して○○円の営業目標を達成するように指導する」とか「勤務中の私語が多い社員に対し、私語を控えるよう指導する」もしくは「経営上の合理的な判断に従い、社員に対してその意にそぐわない業務を命じる」といったケースは、それだけではパワハラと言いきれないでしょう。

理念は立派だけれど…

「あかるい職場応援団」では、パワハラを防止するためには「個人の尊厳の尊重」や「同じ職場で働く他社への配慮」が必要であると説いています。その理念自体は実に立派なものですし、その通りにできる職場であれば何ら問題は生じないでしょう。

しかし、このような高尚な理念だけで、本当に職場の問題は解決できるのでしょうか?

上司の指示を無視し、自分自身の勝手な判断で仕事を進めようとする部下」「本人に自覚の無いまま、他者に不快な思いをさせる言動を繰り返す社員」「会社の経営方針や上司の指導方法に対し、公然と批判する部下」等々、仕事の現場にはいわゆる「問題社員」が付きものです。

これら問題社員に対峙した時、上記のような理念が果たしてどれだけ効果を発揮してくれるのか、個人的には少なからず疑問に感じるところです。

たとえ部下の意にそぐわない事であっても、上司としての立場から、言うべき事や行うべき事は有るのではないでしょうか。そしてそれを実行することは、上司としての責任を果たすことであるとも思います。

「あかるい職場応援団」にも書かれていたように、パワハラに該当するか否かの判断は、個々の事情によって異なります。部下への指導に悩む使用者の方、もしくは上司からのパワハラと思しき言動にお悩みの労働者の方は、お気軽にこちらまでお問い合わせください。専門家として、真摯に対応させていただくことをお約束いたします。