フレックスタイム制と裁量労働制の見直し…業務への影響は

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フレックスタイム制はどのように見直されるか

前回前々回に引き続き、労働政策審議会建議「今後の労働時間法制等の在り方について」(以下「建議案」)の内容を検証します。前回まで取り上げたのは、長時間労働の抑制策労働者の健康確保措置、そして特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)でした。今回は、フレックスタイム制の見直し裁量労働制の見直し、その他について見ていきます。

まずは、フレックスタイム制の見直しから。

2 フレックスタイム制の見直し

(1) 清算期間の上限の延長
・ フレックスタイム制により、一層柔軟でメリハリをつけた働き方が可能となるよ
う、清算期間の上限を、現行の1か月から3か月に延長することが適当である。
・ 清算期間が1か月を超え3か月以内の場合、(中略)清算期間内の1か月ごとに1週平均50 時間(完全週休2日制の場合で1日あたり2時間相当の時間外労働の水準)を超えた労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象とすることが適当である。
・ (前略)清算期間が1か月を超え3か月以内の場合に限り、フレックスタイム制に係る労使協定の届出を要することとすることが適当である。
・ 同時に、清算期間が1か月を超え3か月以内の場合、(中略)月60 時間を超えた労働時間に対する割増賃金率の適用があることはもとより、3か月以内の清算期間を通じた清算を行う場合においても月60 時間相当の時間を超えた労働時間についての対応が必要になること(後略)

文章を読んだだけでは今一つイメージが湧きにくい箇所が有りますので、具体例を挙げて検証してみましょう。上記の引用の内、「清算期間内の1か月ごとに1週平均50 時間を超えた労働時間」という部分です。

今年の2月・3月・4月の3ヶ月間を清算期間とした場合で考えてみます。それぞれの月の日数は28日・31日・30日ですので、合計すると89日。週平均労働時間が40時間になるように清算期間内の総労働時間を算出する場合、計算式は以下のようになります。

89日÷7日×40時間=約508時間(小数点以下切り捨て)

清算期間内の総労働時間が上記の時間内に収まる限り、8時間を超えて働いた日や40時間を超えて働いた週が有ったとしても、それは割増賃金の対象とならないというのがフレックスタイム制の基本的な考え方です。

その例外となるのが、以下のようなケース。

  • 2月の実労働時間 107時間
  • 3月の実労働時間 230時間
  • 4月の実労働時間 171時間

2月~4月の労働時間を足し合わせると508時間となりますので、割増賃金の支払いは不要のように思えます。しかしこの場合、3月の労働時間について割増賃金の支払いが必要となるのです。その考え方は、次のようになります。

まず3月の総日数「31日」を週に換算します。すると、およそ4.43週(小数点第3位以下四捨五入)となります。この4.43週で実労働時間「230時間」を割ったのが、週平均労働時間。これがおよそ51.92時間となり、50時間を超えるのです。このような場合は、たとえ清算期間全体で見て実労働時間が法定時間内に収まっていたとしても、3月の分について割増賃金の支払いが必要だということになります。

私は、建議案を読んで上記のように解釈したのですが、間違っているでしょうか。仮に間違いが判明した場合は早急に訂正しますので、ご了承ください。

企画業務型裁量労働制の対象範囲を拡大

続いて、裁量労働制の見直しについて。

3 裁量労働制の見直し

(1) 企画業務型裁量労働制の新たな枠組
・ 企画業務型裁量労働制の対象業務要件のうち、現行では「事業の運営に関する事
項についての企画、立案、調査及び分析の業務」とされている部分について、(中略)以下の新たな類型を追加することが適当である。
① 法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画立案調査分析と一体的に行
う商品やサービス内容に係る課題解決型提案営業の業務(具体的には、例えば「
引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに
応じた課題解決型商品を開発の上、販売する業務」等を想定)
② 事業の運営に関する事項の実施の管理と、その実施状況の検証結果に基づく事業
の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行う業務(具体的には、例え
ば「全社レベルの品質管理の取組計画を企画立案するとともに、当該計画に基づ
く調達や監査の改善を行い、各工場に展開するとともに、その過程で示された意
見等をみて、さらなる改善の取組計画を企画立案する業務」等を想定)
・ (前略)否定的要素として掲げる内容は、例えば、「店頭販売やルートセールス等、単純な営業の業務である場合や、そうした業務と組み合わせる場合は、対象業務とはなり得ない」、「企画立案調査分析業務と組み合わせる業務が、個別の製造業務や備品等の物品購入業務、庶務経理業務等である場合は、対象業務とはなり得ない」といったものが考えられる。

企画業務型裁量労働制の対象範囲を拡大する、という内容です。「課題解決型提案営業」という縛りが有るとはいえ、対象業務に営業を加えたことは、実務に少なからず影響を及ぼすのではないでしょうか。「提案営業とルートセールスとの違いは何か」とか、「建前上は提案営業のはずなのに、実際にはルートセールスもやらされている」などといった労使間の軋轢が生じる事も考えられます。

その他、建議案で提言された事

その他、建議案では以下のような提言がされています。

  • 週44時間特例対象事業場(小規模の飲食店や小売店など)の範囲を縮小する
  • 過半数代表者」「管理監督者」について正しい理解を広めるよう、周知徹底する
  • FAXや電子メールでの労働条件明示を認める

これらについては、必ずしも今回の法改正に盛り込まれるわけではありません。ただ、どれも実務に影響を及ぼすものばかりです。「このような提言が有ったんだ」ぐらいの認識は持っていた方が良いように思います。

以上、3回に渡って建議案の内容を検証してきました。この記事を作成している最中にも、厚生労働省では、更に労働政策審議会が開かれていたようです(2月17日)。引き続きその内容を検証し、今後の労働政策についてフォローしていきたいと思います。