残業代ゼロ法案に新たな動き…厚労省の提示した制度とは

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残業代ゼロ法案の新たな動き

このブログでも何回か取り上げてきた、いわゆる「残業代ゼロ法案」。つい先日、厚生労働省で新たな動きが有ったようです。

厚生労働省には、諮問機関(厚生労働省に対して意見を述べる機関。学識経験者等で構成され、その意見に拘束力は有りません)として「労働政策審議会」が設置されています。この労働政策審議会は、扱うテーマによって、更に「労働条件分科会」「安全衛生分科会」等に分かれます。

その中の一つである「労働条件分科会」が1月16日に厚生労働省で開催され、その中で残業代ゼロ法案の具体的な中身が提案されました。

その内容は、「今後の労働時間法制の在り方について(報告書骨子案)」と書かれた、こちらから読む事が出来ます。

この件については、既にテレビや新聞等のマスメディアでも報道されていますが、その評価については各媒体によって温度差が有るようです。某テレビ局のニュース番組では「労働組合から、長時間労働への対策が不十分との反発が上がっている」と報道され、その一方では某全国紙にて「メリハリの効いた柔軟な働き方を広げ、国際的にみて低い労働生産性を引き上げる」などと報道されました。

このように、報道機関によって異なる論調で取り上げられた骨子案ですが、実際にはどのような内容なのでしょうか?以下に、その概要をご紹介します。

労働政策審議会の骨子案とは

労働時間の長さでは無く、仕事の成果によって報酬がより多く支払われる制度。これが、いわゆる「残業代ゼロ法案」として報道される制度です。骨子案においては、「4 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)の創設」の項でその全体像が提示されています。

その内容を要約すると、以下のようになります。

  • 高度の専門的知識等を要する」や「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」といった性質を満たす業務が対象
  • 具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務
  • 労働者は、使用者との間で交わされた書面での合意に基づき明確に定められた、職務の範囲内でのみ労働する
  • 年収要件は「1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の●倍を相当程度上回る」としたうえで、1,075万円を参考にして検討する
  • 時間外労働に対する割増賃金を支払う必要が無いため、使用者には労働時間の把握義務が課されないが、労働者の健康確保の視点から「健康管理時間」の把握義務が課される
  • 健康管理時間の把握方法は、タイムカードの打刻時間やパソコンの起動時間といった客観的な方法によることが原則
  • 24時間について継続した一定時間以上の休息時間を与えること、一ヶ月についての健康管理時間の上限を定めること、4週4日以上かつ年間104日以上の休日を与えるといった、長時間労働の防止措置を講じること
  • 医師による面接指導の実施を法的義務とし、違反に対して罰則を付す
  • 制度の導入には、対象労働者の同意が必要。希望しない者には適用されない
  • 制度の導入には、労使委員会を設置した上で、所定の項目(対象業務の範囲など)について5分の4以上の多数で決議し行政官庁に届け出ることが必要
  • 年少者には、この制度は適用されない

こうしてみてみると、昨年4月の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で提示された案を踏まえつつ、労働者にいくぶん歩み寄った内容になっているという印象を受けます。それも考えてみれば当然のことで、これらの諮問機関は、構成する議員がそれぞれの機関ごとに全く異なっているのです。

経済財政諮問会議や産業競争力会議は主に内閣総理大臣や閣僚によって構成され、有識者議員として参加しているのは大手企業の経営者や大学教授ばかりです。それに対して、労働政策審議会の方は、厚生労働大臣によって任命された、公益委員・労働者委員・使用者委員各10名の計30名で構成されています。これだけ構成員の顔ぶれが違っていれば、その議論の進み方や導き出される結論に違いが生じるのは、ごく自然なことと言えるでしょう。

残業代ゼロ法案の今後の動き

実際の成果はともかくとして、厚生労働省は、「長時間労働の抑制」と「労働者の健康と福祉の確保」を労働行政における重点項目としています。その事は、「中小企業における月60時間超の法定時間外労働に対する割増賃金率の適用猶予の見直し」や「時間外労働に対する監督指導の強化」といった内容が今回の骨子案に盛り込まれている事からも伺い知ることができます。大手企業の経営者や大学教授の言い分だけをそのまま鵜呑みにする訳ではない、ということです。

また、「企画業務型裁量労働制」や「フレックスタイム制」 といった既存の制度を見直すことで、新しい働き方を模索していこうとしているのも、今回の骨子案の特徴と言えるでしょう。とりわけフレックスタイム制については、今から数年前に創設された当初こそ話題になり、導入する企業もそれなりに在りましたが、今では全くと言っていいほど使われていないのが実情です

労働者自らが始業・終業の時間を定める」というコンセプトが日本人の気質に合わない、という問題が指摘されている制度では有りますが、働き方の選択肢を広げるという意味でも、より良い方向に見直される事を期待したいところです。

残業代ゼロ法案については、現時点でまだ第一回目の労働政策審議会が開催されただけに過ぎません。過去の例を見る限り、実際に法律が改正されるまでには、更に何回もの会議を重ねていくことが予想されます。

とりわけ今回の法改正は、労働基準法の改正を伴う重要な内容が含まれます。法案の作成には、より慎重な姿勢がとられることでしょう。当ブログでも、会議の推移を引き続き注視していきたいと思います。