長時間労働に悩む労働者の方へ…特別条項付き36協定とは

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数多く寄せられる、長時間労働の相談

「毎日朝早くから夜遅くまで働かされ、休みもロクに取れない」

「1か月の勤務時間を自分で付けて集計してみたら、残業時間が100時間を超えた。こんな職場は異常ではないか」

私が労働基準監督署で相談員を務めていた頃、このような相談が数多く寄せられました。ちょうど私が学生だった頃から「過労死」という単語がマスメディアで取り上げられるようになり、世界的に見ても異常な労働時間の長さが大きな社会問題となりました。あれから何年もの月日が経ち、少しは労働環境もマシになったかと思いきや、一向に状況は改善していないようです。

それどころか、最近では「ブラック企業」(注:厚生労働省は「若者を使い捨てにする企業」という言い回しを使っていますが、ハッキリとした定義は有りません)なる単語がインターネットやマスメディアを賑わせるようにおり、問題の根深さを伺わせます。

このような会社で働いている労働者の皆さまにとって、長時間労働の問題は文字通り生き死にに係わる問題であることでしょう。なんとか労基署に動いてもらって状況を改善したい、という思いをお持ちの方も多いと思われます。

しかしながら、労働基準相談員を務めた一員として、皆さまに知っておいていただきたい現実があります。それは、

1か月の残業時間が100時間になっただけでは、労基法違反とならない場合が有る

労働時間がただ長いというだけでは、取り締まりの対象にならない場合も有る

ということです。どういう事なのか、順にご説明しましょう。

労基法はどのように定めているか

労働基準法第32条では以下のように定めています。

第一項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

第二項 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

いわゆる「法定労働時間」を定めた条文です。この時間を超えて労働者を働かせると労働基準法違反となり、悪質な場合は罰金刑や懲役刑の対象となります(同法119条)。とは言え法定労働時間を厳守するだけでは仕事が回らないケースも多いため、この時間を超過して労働者を働かせる術も労基法に定められています。

それが、いわゆる「36協定」です。使用者が労働者の過半数代表(労働者の過半数で組織する労働組合の代表など)と協定を結ぶことにより、法定労働時間を超えて働かせても違法とならなくなります

この延長時間には、一定の上限が定められています。労基法36条第2項に基づいて定められた「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(いわゆる限度基準)がそれに当たります。

限度基準において、法定時間外労働の限度は1か月45時間1年360時間(一年単位の変形労働時間制を採用している場合はそれぞれ42時間320時間)と定められています。一日については、労働基準法施行規則で定められた危険な業務(有害放射線にさらされる業務など)を除き制限にかかりません

この基準を満たさない36協定に対し、労基署が助言・指導することが認められています(労基法36条第4項)。そうなると「1か月に100時間超の残業は労基署の指導対象じゃないか」となるのですが、この限度基準を更に超えて残業させることができる場合が有るのです。それは、36協定に「特別条項」を定めた場合です。

月100時間超の残業も「合法」!?

特別条項により限度基準超の法定時間外労働が認められるためには、以下の要件を満たす必要が有ります。

  • 限度時間を超えて延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る、具体的には一年の半分を上回らない)が生じていること
  • 労使間で定める手続き(労使間協議や通知など)を経ること
  • 限度時間を超過した労働時間に対し割増賃金率を定めること

以上の要件を満たすことで、1か月45時間超や1年360時間超の法定時間外労働が合法的に可能となります。更に言えば、特別条項において労使が合意する延長時間に対しては、特に上限が設けられていません

すなわち、特別条項において「1か月150時間」と定められた36協定が成立した事業所においては、残業時間が100時間超の月が有ったとしてもそれだけで違法とはならないのです!

もっともこのような合意内容に対して労基署が全く問題視していない訳ではなく、労働者の生命や健康に配慮するよう求める旨の注意喚起を行ってはおります。そして会社に対し、特別条項の延長時間をなるべく短くするように指導してはいるのですが、その効果はあまり出ていないのが現実のようです。

今回はここまで。この続きは次回以降、記述します。

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