有休問題…労働者と使用者、それぞれの事情

有休の悩みは途絶えること無く

人事労務管理に関する様々な問題の中で、使用者と労働者の双方ともに高い関心を寄せるのが「年次有給休暇」(以下「有休」とも表記)です。とりわけ労働者の方からは、「職場で有休を使わせてもらえない」といったご相談が絶え間なく寄せられている状態が続いています。

「有休を使わせてもらえない」という相談者からよくよく話をお聞きしてみると、実は法的な意味での「有休が使えない」とは全く異なる悩みを抱えているケースが少なくありません。今回の投稿では、その辺りの話を書き連ねていきたいと思います。 続きを読む

「労働時間」の概念…産婦人科医師の宅直当番とは

自宅で待機している時間は「労働時間」!?

職場からの急な呼び出しに備え、自宅等で待機している時間。当然お酒は飲めませんし、遠くに外出する事も出来ません。果たしてこの時間が、「使用者の指揮命令下から外れ」「労働から解放された」と本当に言えるのでしょうか?

個人的に感じていたこの疑問に対し、一つの回答を提示した判決が出されました。平成27年2月26日、奈良地方裁判所(以下「奈良地裁」)で争われた時間外手当請求事件です。この裁判の判決文は、裁判所ホームページに全文がアップロードされています。興味のある方は、こちらよりご覧になってください。

事件の概要を簡単にご説明しましょう。原告2名は、被告が運営していた病院(以下「本件病院」)の産婦人科に勤務していた医師です。この病院では、産婦人科の医師に対し、宿日直当番の他に「宅直当番」が割り当てられていました。判決文によれば、宅直当番とは以下のような状態を指します。 続きを読む

懲戒処分と降格人事の妥当性…セクハラにあたる言動とは

セクハラによる懲戒処分と降格人事の妥当性が争われる

最高裁「セクハラ発言処分妥当」 処分無効の二審判決破棄

大阪市の水族館「海遊館」の男性管理職が部下の女性にセクハラ発言をしたことをめぐり、出勤停止の処分が重すぎるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は26日、「管理職としてセクハラ防止を指導すべき立場だったのに、みだらな発言を繰り返し極めて不適切だ」として処分を妥当と判断した

二審判決は処分を「重すぎて酷だ」と無効としていたが、最高裁はこれを破棄し、無効確認を求めた男性側の請求を退けた。(2015年2月26日 14時1分 共同通信)

部下へのセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)が原因で出勤停止の懲戒処分を受け、そのために降格させられた元管理職らが会社を訴えていた事件です。

使用者から労働者への懲戒処分については、労働契約法15条で以下のように定められています。 続きを読む

マタハラ訴訟…最高裁の判断とは

 マタハラ訴訟に対する厚生労働省の反応

妊娠後の降格など「マタハラ」…厚生労働省が通達

妊娠や出産などを理由とした職場での嫌がらせ、マタニティー・ハラスメントマタハラ)を防止するため、厚生労働省は23日付で全国の労働局に通達を出し、企業への指導を厳格化するよう指示した。

通達は、女性が妊娠、出産したり、育休を取得したりしてから近い時期に企業が雇止めや降格などをすると、原則として男女雇用機会均等法などで禁止するマタハラにあたるとする内容だ。

これまでは、企業が女性に不利益な扱いをしても、マタハラにあたるかどうかの明確な判断基準がなく、抜け道になっていた。(YOMIURI ONLINE 2015年1月23日 20時52分配信)

昨年10月23日に最高裁にて判決の出た、いわゆる「マタハラ訴訟」を受けての厚労省の動きです。このマタハラ訴訟の最高裁判決は、TVや新聞などの各種マスメディアでも大きく取り上げられ、「マタハラ」という言葉がこの年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」の候補にノミネートされるほどの注目を浴びました。 続きを読む

パワハラ自殺訴訟…福井地裁のケース

・福井地裁の判決

今朝8時ごろに配信されたyahoo!ニュースの中に、こんな記事が有りました(一部抜粋)。

消火器販売などの「暁産業」(福井市)で勤務していた男性社員=当時(19)=が自殺したのは上司のパワーハラスメント(パワハラ)が原因として、男性の父親が損害賠償を求めた訴訟で、原告の主張を認めて会社と直属の上司に約7200万円の支払いを命じた福井地裁の判決について、原告側が15日までに名古屋高裁金沢支部に控訴した。控訴は12日付。

判決は、男性が手帳に書き残した上司の発言を「典型的なパワハラ」と認定し、会社と、この上司に損害賠償の支払いを命じた。管理職の上司への請求は「パワハラの実態を把握するのは困難だった」と退けた。

続きを読む

日本航空パイロット及び客室乗務員の訴え

元パイロットと元客室乗務員が日航を提訴

今月3日と5日の両日、2010年大晦日に日本航空(以下「日航」)から解雇(以下「本件解雇」)された元パイロット及び元客室乗務員らが労働契約上の地位の確認(平たく言えば「解雇の無効」ということ)等を求めた訴えに対し、東京高等裁判所が判決を下しました。東京高裁はパイロットと客室乗務員の双方の解雇について地裁の判断を支持し、原告の訴えを退けたようです。

この裁判でどのような論点が争われ、原告と被告がどのような主張を繰り広げていったのか見ていきましょう。今回の高裁判決の元になった地裁判決では、以下の2点が争点となりました。(客室乗務員に対する地裁判決の全文はこちら続きを読む