「労働時間」の概念…産婦人科医師の宅直当番とは

自宅で待機している時間は「労働時間」!?

職場からの急な呼び出しに備え、自宅等で待機している時間。当然お酒は飲めませんし、遠くに外出する事も出来ません。果たしてこの時間が、「使用者の指揮命令下から外れ」「労働から解放された」と本当に言えるのでしょうか?

個人的に感じていたこの疑問に対し、一つの回答を提示した判決が出されました。平成27年2月26日、奈良地方裁判所(以下「奈良地裁」)で争われた時間外手当請求事件です。この裁判の判決文は、裁判所ホームページに全文がアップロードされています。興味のある方は、こちらよりご覧になってください。

事件の概要を簡単にご説明しましょう。原告2名は、被告が運営していた病院(以下「本件病院」)の産婦人科に勤務していた医師です。この病院では、産婦人科の医師に対し、宿日直当番の他に「宅直当番」が割り当てられていました。判決文によれば、宅直当番とは以下のような状態を指します。 続きを読む

「残業代ゼロ」対象者は今後拡がるか…改正案要綱より

「残業代ゼロ」法案、ついに閣議決定される

「残業代ゼロ」法案を閣議決定 裁量労働制も拡大

政府は3日、労働基準法など労働関連法の改正案を閣議決定した。長時間働いても残業代や深夜手当が支払われなくなる制度の新設が柱だ。政府の成長戦略の目玉の一つだが、労働組合などからは「残業代ゼロ」と批判されている。2016年4月の施行をめざす。

新しい制度の対象は、金融商品の開発や市場分析、研究開発などの業務をする年収1075万円以上の働き手。アイデアがわいた時に集中して働いたり、夜中に海外と電話したりするような働き手を想定しており、「時間でなく成果で評価する」という。

対象者には、(1)年104日の休日(2)終業と始業の間に一定の休息(3)在社時間などに上限――のいずれかの措置をとる。しかし働きすぎを防いできた労働時間の規制が外れるため、労組などは「働きすぎを助長し過労死につながりかねない」などと警戒している。(YAHOO!ニュース 4月3日(金)16時52分最終更新より一部抜粋)

いわゆる「残業代ゼロ」法案が閣議決定されました。この法案は同日付で衆議院に提出・受理されており、今後は国会で審議されることとなります。 続きを読む

「過労死等防止対策推進法」とは

今年の通常国会において成立し、6月27日に公布された「過労死等防止対策推進法」。同年11月1日が施行日と定められたのに伴い、厚生労働省で「過重労働解消キャンペーン」を実施中であることは、昨日のニュースで取り上げた通りです。

この「過労死等防止対策推進法」ですが、具体的にはどういう内容の法律なのでしょうか?「過労死」「防止」「対策」といった言葉が名前に含まれているのですから、残業を月に100時間させた雇い主には罰則を適用するだとか、労働者を過労死させた雇い主に対して巨額の賠償金を義務付ける法律ができたかのようにも思えます。今回のエントリーでは、その辺りを取り上げてみましょう。 続きを読む

いっしょに検証!年金マンガ

厚生労働省の年金マンガとは

今朝のyahoo!ニュースに、こんな記事が有りました。

年金の「世代間格差」、本当にないのか 厚労省年金マンガに「色々ひどい」と反発

厚生労働省がホームページ上で公開している公的年金の制度や現状を解説するマンガが「色々ひどい」とツッコミを浴びている。

公的年金がなくなることはありません」「若者が損とは言えません」。厚労省としては仕方がない説明なのだろうが、若い世代を中心とした読者を納得させることはできず、反発を招いてしまった

(中略)

マンガは「いっしょに検証!公的年金」というタイトルで、全11話86ページが2014年5月14日に公開された。両親と10~30代の兄妹の家族が、年金にまつわる疑問や不安を口にすると、制度に詳しい「年金子(とし・かねこ)」が「ご安心くださーい」といって解説する内容だ。

公開直後もマンガについて書き込む人がいなかった訳ではないが、15年1月中旬ごろに、一部ツイッターユーザーに発掘されたらしく、まとめサイトに取り上げられ、ネットで注目を浴びた

(後略)

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パート労働者は法改正で救われるか

  来年4月より、パートタイム労働法が改正

平成26年4月16日に成立し、同月23日に公布された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正パートタイム労働法」)」。来年4月1日の施行日に備え、厚生労働省のwebサイトでは「パートタイム労働法の改正について」というページの中でその概要条文新旧対照表等を公開しています。

短時間労働者(以下「パート労働者」)をめぐっては、正社員と変わらない職責を負わされているにも関わらず、非正規労働者であることだけを理由として不当に低い賃金で働かされている、いわゆる「ブラックバイト」が社会問題になっています。パートタイム労働法の今回の改正は、そういったブラックバイト問題の改善に向けた一歩となり得るのでしょうか? 続きを読む

はじめましてのご挨拶、簡単に自己紹介を

本日よりブログを開設しました。このブログでは、労働相談に関する事やマスコミで取り上げられる労働関連のニュース等について書いていこうと考えております。もっとも、あまり堅苦しい事ばかりを書くつもりも有りませんので(そんなに偉そうなことを書けるようなタマでもないですし・・・)、折に触れてやわらかめの話題も取り上げていくつもりです。

今回は第1回目の投稿という事で、社会保険労務士事務所ONEの代表を務める私、中島文之について簡単にご紹介させていただきます。

私は平成23年に社会保険労務士試験に合格し、その翌年の平成24年8月に宮城社会保険労務士会に登録いたしました。当時は郵便局に勤務していたので、勤務社労士としての登録です。更にその翌年の平成25年3月、14年間に渡って勤務してきた日本郵便株式会社(採用当時は郵政省→日本郵政公社→郵便局株式会社→日本郵便株式会社)を退職し、労働基準監督署の相談員として新たな人生のスタートを切りました。同じ年の8月に社労士としての登録を「勤務」から「開業」へと変更し、同年9月~11月の紛争解決手続代理業務の研修を受けて試験も無事に合格。今年3月まで労働基準相談員としての仕事を1年間勤め上げた後、自らの事務所のホームページを立ち上げて現在に至っております。

上記の経歴をご覧いただいてお分かりのように、私は社労士の資格を有してはいるものの、実務経験という面では諸先輩方に比べて圧倒的に不足している人間です(勿論、社労士として最低限必要とされる法知識、また各種書類の記入・提出方法については心得ております)。そんな私が社労士として皆さまにご提供できるサービスとは何かと考えた時、「労働者の皆さんが抱えている数々の悩みや問題を解決するお手伝いがしたい」という思いが湧きあがってきたのです。

一般には、企業が労基署やハローワークに提出する各種書類について、その作成や提出を代行したり、経営者に対して人事・労務に関する法的なアドバイスをするのが社労士の仕事と考えられています。実際、私の先輩である社労士の先生方もそのようなお仕事をされて収入を得ておられる方がほとんどです。しかし私は、労基署の相談員として皆さまから寄せられる様々な相談に触れていく中で、労働の現場で多くの問題が生じていること、立場の弱さや法知識の不足などからたくさんの労働者が苦しんでいることを知りました。このような人々に対して何かお手伝いをさせてほしい、その思いから「労働問題の出張相談」という業務を思い立ったのです。

綺麗事では世の中は回りません。この仕事がいつまで続けられるかは未知数です。ですが、「心の底からやりたいと思える仕事ならば必ずやれるはずだ」という根拠の無い(?)確信が今の私を支えているのです。細々ではあっても、末長く、粘り強く続けていきたいと考えている次第です。今後も当事務所をよろしくお願いいたします。

パワハラについて、改めておさらいを

パワハラをめぐる現状

社会人としてすでに働いていらっしゃる方、もしくはこれから社会に出て働こうとする学生の方で、「パワー・ハラスメント」(以下「パワハラ」)という言葉を聞いたことが無い方はほとんどいらっしゃらないと思います。

数年前、初めて「パワハラ」という言葉がマスメディアに取り上げられた時には、主に使用者側から

この程度の言動がパワハラ扱いされるのか

仕事は辛くて当たり前、こんなことまで役所に口出しされては現場は立ち行かくなる

といった言葉が多く出されていたように記憶しています。しかし、「パワハラ」はその後も死語となることなく、世間に広く浸透していきました。今や、職場の問題を象徴する言葉として、「セクハラ」に比類するほどの浸透度合いと言って差し支えないと思います。 続きを読む

パワハラ対策導入マニュアル…7つの取り組みとは

「対策導入マニュアル」が新たに追加

厚生労働省の委託事業として開設されたポータルサイト、「あかるい職場応援団」。このサイトからパワーハラスメント(以下「パワハラ」)に関する様々な情報が発信されていることは、以前のエントリーでもご紹介しました。

「あかるい職場応援団」にはダウンロードコーナーが設けられており、そこにアップロードされているパンフレットや各種様式は、パワハラへの理解促進や社内研修に活用する事ができます。 続きを読む

パワハラ自殺訴訟…福井地裁のケース

・福井地裁の判決

今朝8時ごろに配信されたyahoo!ニュースの中に、こんな記事が有りました(一部抜粋)。

消火器販売などの「暁産業」(福井市)で勤務していた男性社員=当時(19)=が自殺したのは上司のパワーハラスメント(パワハラ)が原因として、男性の父親が損害賠償を求めた訴訟で、原告の主張を認めて会社と直属の上司に約7200万円の支払いを命じた福井地裁の判決について、原告側が15日までに名古屋高裁金沢支部に控訴した。控訴は12日付。

判決は、男性が手帳に書き残した上司の発言を「典型的なパワハラ」と認定し、会社と、この上司に損害賠償の支払いを命じた。管理職の上司への請求は「パワハラの実態を把握するのは困難だった」と退けた。

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ブラックバイト問題、使用者側からの反論

 ブラックバイトとは

アルバイトとして働いているにも関わらず正社員と変わらない責任やノルマを押し付けられる、空いた時間にシフトを次々に入れられてしまい学業との両立ができない、仕事を辞めたいと言ったら「損害賠償請求するぞ」と脅された…。

いわゆる「ブラックバイト」が大きな社会問題になりつつあります。

ブラックバイト問題が広まるにつれて、労働問題に詳しい弁護士の先生が、労働法の正しい知識を広めるべく学生相手にセミナーを開いたり、学生自らが労働組合(学生ユニオン)を結成する、などといった動きも徐々に出てきているようです。 続きを読む