令和4年度

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 令和4年度の助成金は、前年度と比較して支給要件が厳格化されたり、支給額が減らされたりといった改正が目立つ内容となりました。

 具体例を一つ挙げますと、令和3年度で大いに人気を集めた「65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)」の支給額が大きく見直されました。前年度は、60歳以上の雇用保険被保険者1人以上について定年を廃止すれば120万円又は160万円の助成金を支給される可能性が有ったのですが、今年度からは対象被保険者の人数によって40万円~160万円の支給へと変更されることになりました。

 また、同じく申請件数が殺到した「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」についても改正が有りました。前年度では、時間単位年休制度の新規導入や新型コロナウイルス関連の特別有休制度の新規導入による助成金の支給上限がそれぞれ50万円となっていましたが、今年度はこれが25万円ずつに変更されたのです。

 この他にも、社員一人以上について通勤手当制度を新規導入することで57万円の助成金を受給できるようになる「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」が、新規申込の受付を停止しております。

 このように、少ない労力でより多くの助成金を受け取れる制度が改正されてしまった、もしくは廃止されてしまったというのが令和4年度における助成金の全体的な印象です。

 よって今年度においては、人材活用に関する事業主のビジョンをしっかり確立し、それに適合するものであるか否かを判断基準として助成金を取捨選択することが例年以上に求められると思われます。

 前年度までのお手軽・簡単な助成金のご案内という訳にはいきませんが、そのような中でも皆さまにおすすめできる助成金をいくつか紹介させていただきますのでご覧ください。

キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)

 現在、パート・アルバイトへの社会保険(健康保険及び厚生年金保険)の適用拡大が進められていることをご存じでしょうか。

 これまでは、社会保険への加入義務が課せられるのは原則としてフルタイムで働く正社員のみであり、パート・アルバイトはフルタイムの3/4以上の週所定労働時間で働く人に限り社会保険に加入することができるとされてきました。

 しかしこのルールが近年見直され、現時点で従業員501人以上の企業に限定されてはいるものの、①週所定労働時間20時間以上 ②月額賃金8.8万円以上 ③2ヶ月を超える雇用見込み ④学生ではない といった4つの要件全てを満たすパート・アルバイトには社会保険への加入義務が課せられることとなりました。ちなみにこれはサラリーマンの夫の扶養の範囲内で働くパートタイマーも対象ですので、そのような方については自らの社会保険料を負担する義務が新たに生じることになります。

 この社会保険の適用拡大ですが、今年10月からは「従業員501人以上」の部分が「従業員101人以上」へと改正され、更に2年後の令和6年10月からは「従業員51人以上」へと改正されることになっています。つまり、現時点では社会保険への加入義務が無いパート・アルバイトの方でも、今後2年のうちに新しく加入義務が生じる可能性が有るのです。

 この社会保険の適用拡大を見据え、現時点では対象外となっている従業員500人以下の企業が、労使合意に基づき任意で適用拡大の措置を実施し、自社で雇用するパート・アルバイトを社会保険に加入させようとする取組に対して支給されるのが「キャリアアップ助成金(選択的適用拡大導入時処遇改善コース)」です。

 助成金の支給額は、1事業所当たり19万円、生産性向上の取組に対する加算額が1事業所当たり10万円(いずれも中小企業の額)となっており、社会保険への新規加入に伴う保険料負担額の増加に比べると物足りなく思えるかもしれません。

 しかしパート・アルバイトの社会保険への加入に伴い、当該パート・アルバイトの賃金を増額させた場合、その増額割合(2%~14%以上)に応じて一人当たり19,000円~132,000円が加算されます(いずれも中小企業の額)。社会保険料の天引きにより手取りが減った分を補填してあげたい、とお考えの事業主さまには大いに利用価値が有ろうかと思われます。

 この助成金は令和4年9月30日までの時限措置となっておりますので、ご利用をお考えの事業主さまは早めに取組を進められることを強くお勧めします。

働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)

 その使い勝手の良さから近年人気を集めていた「働き方改革推進支援助成金」ですが、上述したように「労働時間短縮・年休促進支援コース」で支給上限額が引き下げられてしまうなど、かつてのような手軽さは失われつつあるのが現状です。

 しかしそのような中にあっても、比較的取り組みやすく、かつ支給上限額が比較的高めに設定されているコースも未だ存在します。それが「労働時間適正管理推進コース」です。

 これは、令和2年4月1日施行の改正民法を踏まえ、労働基準法における賃金債権の消滅時効などが当分の間3年間と改められたことに伴って新設されたコースです。

 働き方改革推進支援助成金の他のコースと同様、生産性を向上させる様々な取組にかかる経費(労働者等に対する研修費用、外部専門家によるコンサルティング費用、就業規則等の作成や変更にかかる費用、労働能率の増進に資する設備や機器等の導入など)が助成金の支給対象となりますが、このコースの特徴として以下の3点が成果目標に挙げられています。

 ①新たに勤怠管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用すること
 ②新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること
 ③「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること

 要約すると、これまで給料計算や勤怠管理を紙ベースで行っていた事業主さまについては、新しくITシステムを導入して給料計算等を行っていただくことが必要になります。またパソコンを使って給料計算をしていたものの、給料計算と勤怠管理とが連携していないシステムになっている場合も、新たにシステムを導入する必要が生じます。

 就業規則等への規定と研修の実施については「読んで字のごとく」であり、規定の文言や研修内容といった具体的な点については管轄労働局の雇用環境・均等局(室)に問い合わせることになろうかと思われます。裏を返せば、労働局に教わった通りにすれば特に問題になることも有りませんので、申請においてさほど大きな障害にはならないと言えるでしょう。

 このように他のコースには無い特徴が有るため困惑される事業主さまもおられるかもしれませんが、あくまでも働き方改革推進支援助成金の1コースに過ぎませんので、基本的なルールは労働時間短縮・年休促進支援コースや勤務間インターバル導入コースと同じです

 そのため、かつて勤務間インターバル導入コース等を申請した経験をお持ちの方であれば、あまり抵抗感を覚えることなく取り組めるのではないかと思われます。給料計算及び勤怠管理システムの見直しを検討されている事業主さまは、ご活用なさってみてはいかがでしょうか。

業務改善助成金

 前述したように、助成金の支給要件が前年度に比べて厳しくされてしまったのが令和4年度の全体的な傾向ではありますが、必ずしも全ての助成金が申請しづらくなった訳ではありません。

 ごく少数ではあるものの、前年度に比べてむしろ申請しやすくなった助成金も確かに存在しています。その一つが「業務改善助成金」です。

 この助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。 生産性向上のための設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します。(厚生労働省HPより抜粋)

 平たく言えば、職場で最も低い時給で働く従業員の給料を底上げし、かつ作業効率を上げるための設備や機器を導入する事業主に対して、その設備や機器を導入するのにかかった費用の一部を助成金として支給するということです。

 実はこの助成金は何年も前から設けられているのですが、
 ・自動車やパソコンの購入費用は助成金の支給対象外
 ・最低賃金を引き上げてから6ヶ月以上支給した実績が無いと申請できない
 ・少なくとも最低賃金を30円以上引き上げる必要が有る
 ・助成金の支給額は最低賃金を引き上げた従業員の人数次第
 といった特徴が有ったため、より申請しやすい他の助成金の方に人気が集中してしまった結果、業務改善助成金は申請件数が伸び悩むといった状況が続いていました。

 しかし厚生労働省もこのような事態を改善すべく、昨年8月1日から、新型コロナウイルスの影響で売上が30%以上減少した事業主を対象に以下のような見直しを行いました。
 ①最低賃金引き上げの対象人数に「10人以上」を新設し、助成金の上限額を最高600万円に拡充する
 ②乗車定員11人以上の自動車及び貨物自動車を補助対象に加える
 ③パソコン、スマホ、タブレット等の新規導入費用を補助対象に加える

 また10月1日からは、コロナ禍において賃上げ等に取り組む事業主を支援すべく以下のような見直しを行いました。
 ①コロナ禍においてニーズの高い設備等※を助成対象とする
  ※宅配用バイク・自転車、自動検温機、web会議システム等
 ②助成対象となる「人材育成・教育訓練」費用の要件緩和
 ③支給申請時に提出する資料の簡素化

 これらの見直しや要件緩和は、令和4年度においても引き続き行われます。更に今年度からは、支給要件の一つである「引き上げ後の賃金を6ヶ月以上支給する」が「3ヶ月以上」へと緩和されることとなりました。
 政府は最低賃金を全国加重平均で時給1,000円以上にするという目標を掲げているため、ここ数年間は最低賃金が毎年30円前後(都道府県によって異なります)引き上げられています。ここ最近はコロナ禍以前の生活を取り戻そうとする動きが続いており、今年度においても最低賃金が30円程度引き上げられるのはほぼ間違いないと思われます。

 現時点で、都道府県の最低賃金に近い時給で従業員を働かせている事業主様にはご一考の価値が有る助成金と言えるのではないでしょうか。他の助成金の支給要件が厳格化された今年度においては、この業務改善助成金に人気が集中する事態も考えられます。ご興味をお持ちでしたらお早めにご検討ください。