特例コースだけじゃない!業務改善助成金(通常コース)制度改正のご案内

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 前回の投稿にて、令和4年9月1日から業務改善助成金(特例コース)の受付を再開することと、申請の対象となる事業者の範囲が拡大されることについてご紹介しました。

 「特例コース」が有るということは、当然ながら業務改善助成金にも「通常コース」が設けられています。実は9月1日から制度が見直されたのは特例コースだけではなく、通常コースにおいても昨今の厳しい経営環境に配慮した見直しが行われました

 今回は、業務改善助成金(通常コース)の制度改正についてご説明いたします。

業務改善助成金(通常コース)の概要

 まずは通常コースの概要ですが、同じ業務改善助成金のカテゴリーである以上、基本的なルールは特例コースと同じです。以下、厚生労働省のホームページから引用します。

 業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。 生産性向上のための設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します

 通常コースは特例コースと異なり、事業場内最低賃金の引き上げ額や引き上げの対象となる労働者数、及び事業場内最低賃金額によって助成金の上限額や助成率が細かく定められています。厚生労働省作成のリーフレットから一覧表を転載します。

 上記の表の中で各コースに「10人以上」という項目が設けられていますが、90円コース以外では必ずしも全ての事業場が「10人以上」の対象となる訳ではありません。30円、45円、60円の各コースにおいて「10人以上」の対象となるのは、以下の3つの要件のいずれかを満たす特例事業者のみとなります。

  1. 賃金要件:事業場内最低賃金が920円未満の事業場
  2. 生産量要件:新型コロナウイルス感染症の影響により、売上高や生産量等の事業活動を示す指標の直近3か月間の月平均値が、前年、前々年又は3年前同期に比べ、15%以上減少している事業者
  3. 物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的・経済的慣行の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1月の利益率(売上高総利益率又は売上高営業利益率)が、前年同期に比べ、3%ポイント以上低下している事業者

9月1日改正による変更点

 実はこの「特例事業者」という項目自体は以前から存在していたのですが、9月1日改正によってその範囲が拡大されました。上記3つの要件のうち「生産量要件」については売上減少幅が従来の「30%」から「15%」へと緩和され、比較対象期間は「前々年同期」から「3年前同期」へと拡充されました。

 また「物価高騰要件」は、ここ最近の急激な円安や原油高を背景とする原材料費の高騰への対策という形で新しく設けられた要件となっています。

 特例事業者のうち「生産量要件」か「物価高騰要件」のいずれかに該当する事業者であれば、生産性向上に資する経費の補助対象も拡大されます。具体的には、以下の2点に係る経費を申請できるようになります。

  • 乗車定員7人以上又は車両本体価格200万円以下の自動車、貨物自動車
  • パソコン、スマホ、タブレット等の端末及び周辺機器(新規導入に限る)

 このように、新型コロナウイルス感染症の影響による売上高の低迷や、急激な原材料費の高騰による利益率の低下といった厳しい経営環境にあってもなお事業場内最低賃金を引き上げようとする事業者に対しては、国も手厚く支援していこうとする姿勢がうかがえます。

 更に、事業場内最低賃金の額による助成率も下記の表のように細分化され、事業場内最低賃金が低い事業者に対する助成率がより引き上げられることとなりました。

※厚生労働省作成のリーフレットより転載

業務改善助成金の注意点

 このように、9月1日改正によって大幅に使い勝手が良くなった業務改善助成金ですが、申請に当たりいくつかの注意点が有ります。

 まず事業場内最低賃金ですが、10月から各都道府県で引き上げられる地域別最低賃金(宮城県は時給883円)以上でなければなりません。9月以前の最低賃金(宮城県は時給853円)で労働者を働かせていた事業者が、10月以降の引き上げに対処するためにこの助成金を利用することはできませんのでご注意ください。

 また特例コースと同様、助成金を受給するにはまず「交付申請書」と添付書類一式を提出する必要が有りますが、これは令和5年1月31日までに提出することとなっています。また引き上げ後の賃金の支払いや計画された設備等の導入、及び経費の支払いといった一連の事業は令和5年3月31日までに完了させなければなりません。今から取り組みを始めようとする場合、時間的な余裕はあまり有りませんので迅速に進めていく必要が有ります。

 更に、申請単位が「事業者」ではなく「事業場」であることもポイントです。その規模が労働者100人以下であり、かつ事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であることが要件となっておりますので、例えば全体で200人ぐらいの労働者を雇っている会社でも、所有する4つの事業場で労働者を50人ずつ雇っているのであれば、賃金要件を満たす限り全ての事業場で業務改善助成金の申請をすることができるということになります。

 ただし、業務改善助成金を利用できるのはあくまで中小企業のみです。卸売業とサービス業は労働者100人超、小売業は労働者50人超の場合、資本金の額によっては中小企業に当たらないため、そもそも業務改善助成金の対象とならないことも有りますので十分ご注意ください。

本稿のまとめ

 特例コースの記事でも触れましたが、政府は全国加重平均で平均賃金を1,000円以上とする目標を掲げているものの、いまだその目標には達していないのが現状です。すなわち、今後も更なる最低賃金の引き上げが行われる可能性は極めて高いと考えられます。

 今回ご紹介した内容の他にも、業務改善助成金では細かいルールが色々と定められておりますので、ご興味をお持ちでしたら下記のリンク先をご参照ください。

[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 当事務所でも積極的に業務改善助成金を扱っていきますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 最後までお読みくださりありがとうございました。