労働者(以下「労」)「○月×日に休みたいので、年次有給休暇を使わせてください」
使用者(以下「使」)「ウチの会社には年休なんか無いよ。それにすごく忙しい時期じゃないか、休みなんてあげられる訳無いだろう」
労「でも僕は勤続○年だから、年休が使えるはずですよ。法律上認められた権利なのに、ウチの会社は使えないなんておかしくありませんか」
使「さっきから聞いていれば、お前は自分の権利ばかり主張しているな。もういい、お前のような奴はこの職場に必要無い。来てもらわなくて結構だ」
労「それは『辞めろ』ということですか。分かりました、じゃあ辞めさせてもらいます」
使「辞めるなら退職願を提出しろ。そうでなければ退職を認めないからな」
…いかかでしょう。こんな感じのやり取りを実際に職場で見かけた、あるいはご自身がこのようなトラブルの当事者になったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。この労働者と使用者との会話は、労働相談の現場で僕が経験した事例をもとにアレンジして創作しました。
この会話のやり取りを見る限りだと、使用者側が労働者に『辞めろ』と告げている、すなわち解雇を通告しているようにも見えますし、労働者自らが『辞めます』と宣言している以上は辞職の意思表示もしくは合意退職であるようにも見られます。
会社都合による解雇か、もしくは労働者の自己都合退職かでトラブルになるのは、正にこのようなケースです。労働契約の終了が会社都合によるものなのか、それとも労働者の自己都合かは、労使双方にとって決して小さくない問題です。仮に解雇とされてしまえば、会社側には「30日以上前の予告もしくは予告手当の支払い」が必要とされ、また「解雇の無効を争われるリスク」が発生します。一方、労働者側には、自己都合か否かで「雇用保険の求職者給付(いわゆる失業手当)の待機期間が7日間で済むか、それとも3カ月必要となってしまうか」という問題が生じるのです。
「会社都合による解雇は極力避けたい」という思惑と、「向こうが『辞めろ』と言ってきたのだから自己都合な訳が無い」という思いとの衝突は、そう簡単に解決とはなりません。双方が自らの主張するところを譲らず、泥沼化する傾向にあります。このようなトラブルを発生させないためのポイントの一つとして、「退職願を安易に提出しない」ということが挙げられるでしょう。会社側からすれば、退職願を出しているのだから解雇の訳が無いと考えるのは当然ですし、労働者が後になって「そんなつもりじゃなかった」と訴えたところでその主張を通すのはかなり難しくなってしまうからです。
売り言葉に買い言葉で安易な言葉を発したり、その場の感情に任せた行動をとってしまうことは、後々まで引きずるトラブルの元になりかねません。まずはいったん落ち着いたうえで、客観的な立場の第三者に見解を尋ねることが効果的な予防法と言えるでしょう。