競業避止義務、その問題の本質とは

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労働相談の現場では、相談員の頭を悩ます難しい問題にしばしば直面します。

具体的には、私傷病による休職制度の検討や、営業成績が振るわない社員への降格措置の妥当性転居を伴う配転命令の是非といった問題です。これらに共通しているのは、「明確で分かりやすい基準が存在しない」ということ。

賃金未払いやサービス残業、最低賃金を下回る賃金といった問題に対しては、労働基準法24条、同法37条、最低賃金法4条という明確な基準が有りますので、「法違反ですから労基署に申告してみてはどうですか」という結論を比較的容易に導き出すことができます。しかし、前述した「明確で分かりやすい基準が存在しない問題」については、こういった基準を当てはめて考える事が出来ないので、相談者に対してどのようにアドバイスをするべきか、相談員は頭を悩ませることとなります。

今回取り上げる「競業避止義務」は、正にこういった問題の代表格と言えるでしょう。競業避止義務という言葉には馴染みの無い方も多いでしょうし、用語だけでは何の事を言ってるのかサッパリ分からないでしょうから、具体例を挙げてみます。会社に採用される際、もしくは仕事を辞める際に、以下の文言が入った誓約書にサインするよう求められた事は有りませんでしょうか?

○○は、××社を退職するにあたり、退職日以後3年間は同業他社への就職をしてはならない。また、同じ期間、○○は××社と同種の事業を自ら立ち上げ、営んではならない。これらに違反した際は、○○は××社に退職金の半額を返還するものとする。

実際の誓約書の文言はこんな端折った書き方にはならないでしょうが、大まかな内容はつかめるかと思います。要は、退職する社員に対して、同業他社への再就職や同種の事業の立ち上げを一定期間、会社が禁止するということです。これが「競業避止義務」を課すことになります。

会社からすれば、自社の利益を上げてもらうためにわざわざ苦労して社員を育て上げたのに、せっかくのスキルや人脈を他社で使われてはたまったものではない。そう考えるのは至極もっともです。とりわけ生命保険の営業所などでは、成績優秀なセールスマンが自らの顧客をごっそりと引き抜いて独立などされてしまっては、大打撃となるでしょう。そういった事態を防ぐために、競業避止義務の入った誓約書を用意するというのは合理的な行動と言えます。

しかし、この競業避止義務ですが、法的には何ら問題が無いと言い切れるでしょうか?

私は弁護士資格の保有者では無いので、詳細についてはあえて言及を避けますが、退職する社員に対して会社が競業避止義務を課すことは、民法90条に違反するとして無効とされる可能性が有ります(法的な根拠と結論に至るまでの論理については弁護士の先生のブログなどをご参照ください)。要は、社員が有する職業選択の自由を、会社が一方的に制限してはならないということなのです。

とは言え、会社の側にも、社員に競業避止義務を課す事には一定の合理性は有るはずです。よって、競業避止義務の問題については、社員が有する職業選択の自由を制限するほどの合理性や相当性が、会社が課す競業避止義務に含まれているのか、個々の事例ごとに検証する必要が有ります。そのため、当事者の一方から、事案の大まかな内容を聞いただけでは、安易に結論を導き出すことができないのです。

労使間で発生するトラブルには、競業避止義務の問題のように、単純に法律を当てはめるだけでは解決できないものが多く含まれています。当事務所では、そのような職場のお悩みに対し、労使を問わず対応させていただく事を基本理念としておりますので、是非お気軽にご相談ください。お問い合わせの際は、こちらのお問い合わせフォームか、または022-718-8284までお願いいたします。