年次有給休暇を使うために必要なこと

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労働者の切実な悩み

「年次有給休暇(以下「有給休暇」)を使わせてほしい」

労働相談の現場で皆様から寄せられるご相談や、労働問題を取り扱っているwebサイト、検索キーワード等から察するに、「有給休暇を使いたくても使えない」というお悩みを抱えていらっしゃる方が多くいらっしゃるように思われます。

労働者の意識の変化に伴い、「仕事だけが人生の全てではない」という価値観が広く浸透してきた一方で、慢性的な長時間労働や休日労働により若者を「使い捨て」にする企業(いわゆるブラック企業のことを、厚生労働省ではこう表現しています)が、いまだ数多く存在しています。こういった企業で働き続け、精神的にも肉体的にも限界に近付きつつある労働者が、「少しぐらい休ませてほしい」と考えるのは至極当然と言えるでしょう。

また、女性の社会進出に伴い、「仕事と子育ての両立」のために有給休暇が必要だという一面も有ると思われます。実際、「子供が熱を出してしまい、自宅で看病しなくてはならない」「子供が学校で体調を崩してしまい、病院に連れていく必要が有る」等といった理由で、同僚(ほとんどが女性)が仕事を休んだり早退しなければならなくなる事態に、私自身も何度か遭遇してきました。労働相談の現場でも、女性の方からお寄せいただくご相談には、有給休暇に関するものがとりわけ多いように思われます(あくまで一個人としての印象です)。

しかしながら、中小企業にお勤めの方やパートタイマーの方の場合は、有給休暇を使おうとしても「忙しいからダメ」「嫌なら辞めろ」などと、にべも無く断られてしまうケースがほとんどです。この事は、以前のエントリーでも取り上げました。

「有給休暇とはどのような制度か」「法律ではどのように定められているのか」については、これまでもご説明してきましたので、今回は「有給休暇を使うためにはどのように行動すべきか」に的を絞って書きたいと思います。

有給休暇を使うために…法律の定めは

どうすれば有給休暇を使えるか。その答えは、極めて単純明快です。

『○月×日に有給休暇を使って休みます』と上司に対して(なるべく書面で)申請し、その日になったら休むこと

たったのこれだけです。

何を言っているんだ、それができれば苦労しないと感じられる方も多いでしょう。現に、労働相談の現場などでも、「有給休暇を使いたいと言ったら上司に嫌な顔をされた」「『損害賠償請求するぞ』と脅された」という話をよくお聞きします。せっかく自らの正当な権利を行使しようとしても、上司からそのような反応が返ってくると、泣く泣く引っ込めざるを得ないのも無理からぬことです。

しかしながら、そもそも労働基準法では、有給休暇を使うための条件として「上司からの許可が必要」などと定めてはおりません。労働者が「○月×日に有給休暇を使って休みます」と申請してきたら、使用者側は原則としてそれを認めなければならないのです(その詳細については、以前のエントリーでご説明しています)。

また、有給休暇を使って仕事を休んだ労働者に対して損害賠償請求したところで、裁判所がそれを認めてくれる可能性はほぼ無いと言って良いでしょう。あくまでも一般論として書かせていただきますが、会社側が損害賠償請求をしてそれを認めさせるためには、具体的な損害が現に生じている事、その損害と有給休暇の使用とに相当因果関係が有る事、会社に損害を与えようとする意図が労働者側に存在する事などを立証する必要が有ります。私は弁護士では無いので詳しい言及は避けますが、会社側が上記のような立証をすることは、現実にはほぼ不可能ではないでしょうか。

上司や同僚との関係

「法律上は真っ当な権利の行使であっても、有給休暇を使う事で上司や同僚との人間関係が悪化するのでは…」と心配される方もいらっしゃるでしょう。とりわけ中小企業の場合、ギリギリの人員配置で仕事を回しているケースがほとんどですから、一人が休むことによって他の労働者にそのしわ寄せが行くことは避けられません。

これについては、労働者自身の普段の行動によってカバーするより他に無いように思います。すなわち、「普段から真面目に仕事に取り組み、他人より多めに働く」「同僚や上司と良好な人間関係を築く」「(小さい子供を抱えていたり、父母が大病を患っている等)有給休暇を取らざるを得ない状況に在る事を同僚や上司に話して理解してもらう」等といった行動を心がける事です。

ご自身に置き換えて考えてみてください。普段から仕事熱心で、周囲との人間関係も良好な同僚が「有給休暇を使って休みたい」といってきたら、あなたはどう感じるでしょうか。逆に、普段からろくに働かず、周囲の人間への配慮を欠いているような人物が同じように言ってきたら、どう感じるでしょうか?

人それぞれ考えの違いは有るにせよ、前者に対しては「あの人が休むのなら仕方ないか」と受け入れ、後者に対しては「何だアイツは」と反発するケースがほとんどではないかと思います。

有給休暇を使って休みを取れるようにするためには、そのようにし易い職場環境を、労働者自身の力で作り上げていく事も必要なのではないでしょうか。

今一つ具体性に欠ける内容のアドバイスですし、空虚な理想論に思われるかもしれません。しかし、法律を当てはめて考えることのできない、人間関係の部分でのアドバイスとなると、このようなものにならざるを得ないのが正直なところです。「仕事熱心・良好な人間関係・周囲の理解」といった条件を全て満たす必要は有りません。その内の一つでも普段から心がけることで、有給休暇を使いやすい職場環境に少しずつ近づいていくのではないかと思います。

問題が起きたら、一人で悩まない!

以上、有給休暇を使うためにはどうすべきかについてご説明してきました。

上記のご説明は、あくまでも一般論や原則論にすぎません。当然のことながら、労働者個々人が抱える事情はそれぞれ異なりますし、職場環境もそれぞれの職場によって全く違ったものになるでしょう。理屈は分かっていても、それをいざ実践するとなると、なかなか思うようにいかないのがほとんどだと思います。

どんな悩みでもそうですが、とりわけ仕事の悩みで重要なのは、決して一人で悩まない事です。特に労働関係の法律は、その内容が正しく世間に広まっていないため、たとえ上司の発言であっても法律上は何ら根拠の無いものが少なくありません。

ご自身の職場で疑問に感じる点などございましたら、労基署や地方公共団体などの相談窓口でご相談いただくか、またはこちらまでお問い合わせください。当事務所では、人事労務管理の専門家として、法律に則った適切なアドバイスをさせていただくことをお約束します。