労働時間について、生じやすい誤解(後編)

このエントリーをはてなブックマークに追加

前回に引き続き、今回のエントリーも労働時間に関する話題です。

労働基準法(以下「労基法」)では、労働時間の上限を日単位(8時間)及び週単位(40時間もしくは44時間)でしか定めておらず、月単位で見たときに総労働時間が160時間~184時間と変動してもそれは違法とならない、というのが前回のお話でした。

しかしながら、特に職場で総務関連のお仕事をされている皆様の中には、「1ヶ月の労働時間の上限は171時間とか、177時間じゃないの?」と考えていらっしゃる方もおられます。なぜそうなるのでしょうか?

推測ですが、「月の労働時間の上限は一定の数値で決められている」と考えていらっしゃる方の念頭には、労基法32条の2に定める「一箇月単位の変形労働時間制」が有るのではないかと思われます。この「一箇月単位の変形労働時間制」、どんな制度かと言いますと、「一ヶ月以内の一定の期間を平均して、一週間当たりの労働時間が40時間ないし44時間を超えていなければ、特定の日または週において法定労働時間を超えていても違法とならない制度」なのです。

言葉で説明しただけではなかなか伝わりにくいかと思いますので、具体的な例を挙げてご説明しましょう。労基法32条の原則通り、1日8時間、1週40時間が上限となる職場を想定します。この職場では、毎週土日が休日になる(ただし国民の祝日は労働日)こともあって、月曜日と金曜日は非常に忙しくなるためどうしても9時間は働く必要が有ります。その半面、週の真ん中で有る水曜日は割とヒマになるので、労働時間を6時間にしても問題は有りません。このような職場では、変形労働時間制が非常に適しています。労基法32条の2に定める手続きを踏んで変形労働時間制を導入し、毎週月・金曜日を9時間、火・木曜日を8時間、水曜日を6時間とする所定労働時間を定めると以下のようになります。

9時間+8時間+6時間+8時間+9時間=40時間

すなわち、1日単位では超えていても、週単位では法定労働時間内に収まってしまうんですね。変形労働時間制なら、全く合法的にこのような労働時間が定められます。別途36協定を締結する必要も有りませんし、2割5分増しの割増賃金を払う必要も有りません。上記の例では日単位で上限を超えたケースを取り上げましたが、週単位で上限を超える場合でも同じように扱えます。例えば、或る週の所定労働時間を45時間と定めたら、別の週は35時間と定める((45時間+35時間)÷2=40時間)、なんて事も可能です。

最初に取り上げた、1ヶ月の労働時間の上限171時間とか177時間というのは、この変形労働時間制を採用した時に出てくる数字なのです。「一ヶ月以内の一定の期間を平均して一週当たり40時間」というのは、数式にすると以下のようになります。

〈30日の月〉 30日÷7日×40時間=約171時間 (小数点以下切り捨て)

〈31日の月〉 31日÷7日×40時間=約177時間 (少数点以下切り捨て)

すなわち、一箇月単位の変形労働時間制を採用した場合は、30日の月は所定労働時間の総数を171時間以内に、31日の月は177時間以内に収めなければならない、ということなのです。この事が頭に有ると、「所定労働時間を週40時間と定めたら、或る月の総労働時間が184時間となった」と聞いたときに「あれっ?」と考えてしまう訳なんですね。月の総労働時間を問題にする時には、その職場でどのような労働時間制を採用しているのかを考えないと、誤った結論に到達しかねないので注意が必要です

上記の例では一箇月単位の変形労働時間制を取り上げましたが、労基法32条の4には「一年単位の変形労働時間制」というのも定められています。今回は詳しく取り上げませんが、端的に言うと、この制度を採用することで月平均所定労働時間を173時間とすることも可能です。

以上見てきたように、どのような労働時間制を採用しているかによって「法定時間外労働」「時間外割増賃金」の考え方は大きく違ってきます。「ウチの職場は違法な働かせ方をしている!?」と疑問を感じたら、就業規則等で所定労働時間の内容を改めて確認してみることをまずはお勧めします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。