セクハラによる懲戒処分と降格人事の妥当性が争われる
最高裁「セクハラ発言処分妥当」 処分無効の二審判決破棄
大阪市の水族館「海遊館」の男性管理職が部下の女性にセクハラ発言をしたことをめぐり、出勤停止の処分が重すぎるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は26日、「管理職としてセクハラ防止を指導すべき立場だったのに、みだらな発言を繰り返し極めて不適切だ」として処分を妥当と判断した。
二審判決は処分を「重すぎて酷だ」と無効としていたが、最高裁はこれを破棄し、無効確認を求めた男性側の請求を退けた。(2015年2月26日 14時1分 共同通信)
部下へのセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)が原因で出勤停止の懲戒処分を受け、そのために降格させられた元管理職らが会社を訴えていた事件です。
使用者から労働者への懲戒処分については、労働契約法15条で以下のように定められています。
使用者が労働者を懲戒する事ができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
事前に何の警告や注意も無く、出勤停止のような重い懲戒処分(就業規則上、懲戒解雇の次に重いとされる)を行うのは「社会通念上相当」とは言えないのではないか、出勤停止処分が無効であればそれを根拠とする降格処分もまた無効ではないか…というのが、元管理職らの主張でした。
最高裁判決の前段階にあたる控訴審では、元管理職らの主張を認め、出勤停止の懲戒処分と降格の双方を無効であると判断しました。しかし冒頭にもあるように、最高裁は、それとは全く逆の結論を出しています。
裁判所ホームページにアップロードされている判決文(全文はこちら)を基に、今回の事件の事実関係を見ていきましょう。
セクハラ事件の概要とは
今回の事件の登場人物、及び実際に起きた出来事は以下のようになります。
- 上告人(被告、被控訴人。以下「会社」)は、水族館の経営等を目的とする第三セクター(大阪市出資)
- 被上告人X1(原告、控訴人)は、事件発生当時、営業部サービスチームのマネージャー(責任者)の職位に在った
- 被上告人X2(原告、控訴人)は、事件発生当時、営業部課長代理の職位に在った
- セクハラの被害者は、派遣会社Dに雇用されている女性従業員のAとB
- 従業員Aは派遣社員としてX1らの下で働き、BはDの従業員として請負業務に従事していた
- 女性従業員が多いことから、セクハラ禁止文書を配布するなど、会社はセクハラ防止のための様々な取り組みを行っていた
- 会社の就業規則やセクハラ禁止文書において、セクハラ行為が懲戒処分の対象となる行為であることが明記されていた
- 懲戒処分を受けた従業員に対し、降格措置を取り得ることが規定に定められていた
- セクハラ行為は、平成22年11月から翌年12月に至るまで、およそ1年に渡って行われた
- 従業員A及びBからの被害申告を受け、会社はX1とX2に対し、セクハラ行為を懲戒事由とする出勤停止処分を下した(Aはセクハラが一因となって退職)
- 出勤停止処分を受けた事を理由に、会社はX1とX2に対し一等級降格の人事を行った
一連の出勤停止処分及び降格人事により、X1とX2は金銭的に相当な打撃を受けています。具体的にはX1の場合、30日間の出勤停止処分によって給料が49万2933円減額され、夏のボーナスも15万5459円減額されました。また年齢給の昇給も受けられず、管理職から降格させられたことで各種の手当も受けられなくなっています。
セクハラ行為自体は決して許されるものではないものの、上記のような多額の経済的損失をもたらすような処分は重きに失する、というのが控訴審の判断であったようです。またX1らが過去に懲戒処分を受けた事が無かったのも、処分無効とする判断を後押ししたようでした。
しかしながら、最高裁はこれとは全く逆の判断をしています。その理由として、最高裁は、会社がセクハラ防止のための様々な取り組みを行っていた事やX1らが管理職の地位に在った事の他に、セクハラ行為そのものの悪質性を挙げています。
最高裁判決を左右した、悪質な言動
ここで、判決文の中から、セクハラ行為の内容について述べられた箇所をピックアップしていきましょう。大変下品な表現が数多く含まれていますが、ご了承ください。
まずはX1の言動から。
- (Aに対し)複数回にわたって、自らの不倫相手の年齢や職業、性生活の話をした
- 「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」
- 「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん」
- 「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」
- 「この前、カー何々してん」と言い、Aに「何々」のところをわざと言わせようとした
- 水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ…」「かかんで中見えたんでラッキー」「好みの人がいたなあ」などと発言した
続いて、X2の言動です。
- (Aに対し)「いくつになったん」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」
- (Aに対し)「30歳は、二十二、三歳の子から見たらおばさんやで」
- (仕事を辞めるというAに対し)「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」
- Aの給料の少なさを揶揄し、夜の仕事を副業にすることを勧めるかのような発言をした
- セクハラ研修を受けた後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ」「あんなん言われる奴は女の子に嫌われてるんや」という趣旨の発言
これらの言動に対し、最高裁は「いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので,職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって,その執務環境を著しく害するものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる」と厳しく弾劾しました。
彼らの一連の言動には、単に性に関する話題を女性従業員の前で口にしたこと以上の問題が有るように思います。すなわち、女性に対する侮辱や卑下がその根底に在る、という事です。セクハラ上司への厳しい処分を是とした今回の最高裁判決に対し、賛同する方も多いのではないでしょうか。
逆に「彼らの発言の、どこに問題が有るの?」と思ったアナタ!要注意です。セクハラに対する世間の目は予想以上に厳しいものであると、肝に銘じておきましょう。性別にかかわらず、同じ職場で働く仲間に対し一定の敬意を払う事。それが、円満な職場環境を築きあげる秘訣なのです。