平成27年度の年金額改定率発表…その影響は

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 平成27年度の年金改定率発表

先月30日、厚生労働省より「平成27年度の年金額改定について」という発表が有りました。この発表は、各種のマスメディアやブログ等でも既に取り上げられているため、どのような発表だったかご存じの方も多いかと思います。

実際にどんな内容だったかは、こちらをご覧になってください。

発表された内容をかいつまんで説明すると、要は平成27年度に支給される年金額の改定率が決まったという事です。平成26年度と比べて、0.9%引き上げられることになりました。具体的にどのように変わるかについては、以下のモデルケースで紹介されています。

  • 老齢基礎年金(満額)の月額 64,400円→65,008円+608円
  • 老齢厚生年金(夫婦二人分、老齢基礎年金含む) 219,066円→221,507円+2,441円

上記のモデルケースは、平成27年度に年金支給の新規裁定を受ける、67歳以下の方を対象としたものです。また、老齢厚生年金のモデルケースで想定されているのは「夫が平均収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯」ですので、この条件に当てはまらない世帯(そちらの方が大多数でしょうが)はもらえる年金の額が違ってきます。実際に支給される年金の額がいくらになるのか、それは日本年金機構より送られてくる通知書でご確認なさってください。

金額こそ大きくはないものの、これから年金を受け取ろうとする人、もしくは現に受け取っている人にとっては、自らに支給される年金の額が増えるという発表です。マスメディアやブログ等でさぞかし好意的に捉えられるだろうと思いきや、私が目にした限り、「年金額の実質的な目減り」とか「高齢者に負担を強いる決定」などという見出しでこの発表を報じた記事が多かったような印象が有ります。

支給される年金の額が増えているのに「目減り」とか「負担を強いる」などと報じられてしまうのは何故なのでしょうか。そもそも、年金額の改定とはどのようなルールで行われるのでしょうか?

平成27年度の改定率はどのように決まったか

老齢基礎年金にしろ、老齢厚生年金にしろ、年金として支給される金額は法律で定められています。例えば老齢基礎年金の場合でしたら、年額で 780,900円×改定率 といった具合です(国民年金法第27条)。ただし、この780,900円という額は、40年間一度も欠かさずに国民年金保険料を納め続けた人がもらえる満額であることにご注意ください。もし保険料を払いそびれてしまい、その後の追納もしていない人には、それよりも低い額での支給となります。

さて、この年金の支給額ですが、法律でこのように定められているからといって、国の経済状況に関わらず常に同じ額しか支給されないようでは困ります。景気の良し悪し、物価の上昇または下降、少子高齢化といった経済状況の趨勢が反映されなければ、「年金の額が少なすぎて生活していけない」だとか「保険料収入が少ないのに年金支給額ばかりが増えてしまい、年金制度が破たんしてしまう」といった問題が生じます。

そこで、これらの問題に対処していくために「改定率」が用いられる訳です。

上記のリンク先の資料を読んでいると、様々な専門用語が目に付きます。

  • 名目手取り賃金変動率
  • 物価変動率
  • マクロ経済スライド
  • スライド調整率
  • 実質賃金変動率
  • 可処分所得割合変動率
  • 特例水準

これら専門用語の詳しい解説は、年金の専門書や他のブログ等に譲ることとしましょう。当ブログでは、「平成27年度の年金額改定はどのような考えの下に行われたのか、それによってどのような影響が生じるのか」に絞って取り上げさせていただきます。

非常に乱暴な解説になってしまいますが、平成27年度の年金額改定は以下のような思考プロセスの下で行われました。

  • 物価は3%近く上がったが、実質賃金と可処分所得割合は少し下がった
  • そのため、名目手取り賃金の伸びは2.3%にとどまった
  • 名目手取り賃金変動率<物価変動率 なので、名目手取り賃金変動率に基づき年金額を改定
  • 現役世代の人口が減り、平均余命が伸びたので年金支給額をマイナス調整(マクロ経済スライド
  • 本来の支給額よりも多く支給していた分が有ったので、その分をマイナス調整(特例水準の解消

以上より、名目手取り賃金変動率2.3%マクロ経済スライド▲0.9%特例水準の解消▲0.5%の三要素をかけ合わせた結果、0.9%の伸びという改定率になったという訳です。

年金受給者の生活に与える影響

さて、この0.9%の伸びという改定率ですが、これによって年金受給者の生活にどのような影響が及ぶのでしょうか。

上記のように、平成26年度の物価上昇率は2.7%でした。対して、年金の上昇率は0.9%に過ぎません。年金の支給額が上がったとは言え、その上昇率は、物価のそれに追いついていない訳です。するとどうなるかと言うと、年金の価値が目減りします

例えば、公的年金で月々の家賃+水道代+光熱費+電話料金を賄っていた場合。例え物価が上がっても、その上昇率と同じぐらい年金の額も上がっていれば、以前と変わらずに公的年金で「月々の家賃+水道代+光熱費+電話料金」を賄っていけるでしょう。

しかし、年金支給額の上昇率が物価上昇率を下回ってしまうと、公的年金だけでは「月々の家賃+水道代+光熱費」しか賄えない、という事態になってしまうのです。公的年金によって購入できるモノが減ってしまう、これが「価値が目減りする」ということです(これまた、乱暴な説明ですが)。

年金の価値が目減りすれば、当然、年金受給者の生活は苦しくなります。各種マスメディア等の記事の中で、「高齢者への負担増」という見出しで厚生労働省の発表を取り上げたものは、こうした一面を強調して取り上げているのでしょう。

上述したように、厚生年金被保険者(すなわち現役世代)の減少と平均余命の伸びによって、マクロ経済スライドによる調整率が定まります。ご存じのように我が国は少子高齢化の真っただ中にいる訳ですから、今後も現役世代は減り続けますし、医療技術の進歩によって平均余命も伸び続ける事でしょう。という事は、マクロ経済スライドによる年金価値の目減りは今後も起こり得ますし、スライド調整率による下げ幅が更に大きくなる可能性も有り得ます

公的年金は老後の生活を支える大きな柱である事は確かですが、それだけに頼り切ってしまうのは危険と言わざるを得ません。豊かで安定した老後を送るためには、普段から少しずつでも貯蓄をするなど、国民一人一人の自助努力が必要となってくるのではないでしょうか。