年金マンガは女性蔑視!?大手マスメディアとネットとのズレ

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またも問題視された年金マンガ

厚生労働省のホームページに掲載されている、公的年金制度のPRマンガ「いっしょに検証!公的年金」(以下「年金マンガ」)。この内容に対し、特に若い世代を中心として反発が強まっていることは、以前のエントリーでもご紹介しました。

主にtwitterを中心として、ネット上でこの話題が盛り上がっていたのが先月の半ばごろ。その後は徐々に沈静化していき、少なくとも私の知る範囲では、この話題に関する投稿を目にする事も無くなっていきました。ところが、ここにきて再びこのマンガへの批判が高まってきたようです

ネット上での「旬」はとっくに過ぎ去っているのに、何を今更?という疑問が湧くところではありますが、一体どういう経緯で年金マンガへの批判が高まってきたのか見ていくことにしましょう。

東京新聞の2月8日朝刊に掲載された記事から、一部引用します。

「結婚してたくさん産めばいい」 年金PR漫画 批判集中

公的年金制度の必要性を説明しようと、厚生労働省がインターネット上で公開している広報用漫画の内容が波紋を広げている。登場人物の若い女性が制度維持には「結婚してたくさん子どもを産めばいい」などと発言し、結婚・出産という個人の選択に国が口を挟んでいるように受け取れるからだ。国会でも取り上げられ、関係者からも「出産は制度維持が目的ではない」と反発の声が出ている。

(中略)

問題の場面は最後の第11話。少子化が年金制度の維持に影を落としていると知った姉が「あんたが結婚してたくさん子どもを産めばいいのよ!」と妹に発言。別のコマでは、解説役の女性も姉の手を引っ張り「バリバリ働いて今週のお見合いパーティも頑張りましょー!」と叫ぶ場面で終わる。

一月三十日の衆院予算委員会では、野党議員が漫画を取り上げ「女性が頑張って子どもを産めば問題は解決するのか」と追及。塩崎恭久厚労相は「上手(な表現)ではない」と釈明したが、今月三日の記者会見で「女性をやゆする意図はない」とこのまま掲載する考えを示した。

なるほど、衆議院の予算委員会で、野党議員から年金マンガについての質問が有った、というのがきっかけだったようです。

しかし、この「野党議員」の質問の内容に違和感を感じてしまうのは、私だけでしょうか。そもそも、若い世代を中心としたネットユーザーが、この年金マンガのどこに反発を覚えたのか改めておさらいしてみましょう。

ネットユーザーが問題視した箇所とは

2015年1月14日配信のJ-CASTニュース、そしてtogetterまとめ『「厚労省の酷い年金マンガ」への反応』をご覧ください。これらの記事では、年金マンガの内容に反発するネットユーザーの声が数多く紹介されています。

その中でも代表的なものは、以下の通り。

  • 論理のすり替えが酷すぎる
  • これでほんとに若い人が納得するんだろうか
  • 女性に何を求めているのかあけすけ
  • 問題を別の質問でごまかし、本当の事を全然見ていない上に最後は「お見合いパーティ」
  • 幾つも挙げられている問題点に対して何一つ具体的な解決策を出してねぇwと言うより仕方ないってなんやねん!

あんたが結婚してたくさん子供を~」のコマに見られるような、旧時代的な女性感を問題視する投稿も確かに見られますが、問題の本質はそこでは無いように思います。むしろネットユーザーが強い反発を覚えたのは、「受け取る年金に差があったとしてもそれだけで若者が損とは言えないと思いませんか?」のコマに象徴される、論点のすり替えや言い訳がましさではないのでしょうか?

昭和36年4月に国民年金法が施行されて以来、公的年金制度は数え切れないほどの改正を繰り返してきました。その内容を一言で言ってしまうと、「負担の増加と支給の削減」です(一部には例外も有りますが)。主なものをざっと挙げてみると、

  • 保険料の段階的な引き上げ(平成29年度まで)
  • 老齢厚生年金支給開始年齢の段階的な引き上げ(60歳→65歳)
  • 大学生の国民年金強制加入
  • マクロ経済スライドの導入(現役世代の減少と平均余命の伸びを年金額に反映)
  • 老齢基礎年金支給額の低下(平成11年度804,200円→平成26年度772,800円)

なかなか脱却できないデフレ経済、未婚の男女の増加、低迷する出生率、高齢者人口の増加といった、制度設立の時点では想定外の事態が生じている、という事情は有るかもしれません。しかし、これだけ多くの改正を繰り返す年金制度に対し、国民(特に若い世代)が不安や不信感を抱いてしまうのは無理も無いと言えるのではないでしょうか。

そしてこうした不安に対し、この年金マンガは十分に応えているかと問われれば、残念ながらそうではないと言わざるをえません。「公的年金制度を分かりやすく解説する」と謳っておきながら、その実態は厚労省の自己弁護と若者への責任転嫁であるとネットユーザーに見なされてしまったこと。それこそが、年金マンガに批判が集中した主な原因であると私は考えます。

ネットユーザーと大手マスメディア等との認識のズレ

そう考えると、「野党議員」の質問内容、そして記事として取り上げた東京新聞や朝日新聞の論調は、どうにもズレているように思えて仕方が無いのです。

衆議院のホームページによれば、件の質問をした野党議員は、維新の党所属の「柿沢 未途」議員とのこと。公開されているプロフィールを拝見する限り、年金問題に対して精力的に携わってきた方のようです。しかしこの問題に関する限りでは、ネットユーザーの意見を若干見誤ってしまったのかな、という印象を受けます。

そして、記事として取り上げた東京新聞と朝日新聞。この二紙については、今更申し上げるまでもないでしょう。普段からリベラル的な論調を是とする新聞社ですから、いつもの調子で「女性の人権ガー」とか「安倍政権ガー」といった感じで記事を仕上げた、そんなところではないでしょうか。

同じ事象であっても、それを取り上げるメディアの方針や姿勢によって、報道の内容は大きく変わります。最近では、日本でもメディア・リテラシー情報メディアを主体的に読み解いて必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する能力のこと。wikipediaより)という言葉が浸透してきました。ニュース番組や新聞記事に対しては、常にこのメディア・リテラシーを念頭に置いた上で接するよう、心がけていきたいものです。