マイナンバー制度と社労士業務

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 いよいよ始まるマイナンバー制

平成25年5月24日に成立し、同月31日に公布された「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆるマイナンバー法)。この法律に基づき、いよいよ今年の10月からマイナンバーの通知が始まります。

対象となるのは、住民票を有する全ての個人法人。個人と法人とに付与されるマイナンバーには、それぞれ以下のような特徴や違いが有ります。

  • 個人のマイナンバーは、年齢に関係なく、赤ん坊からお年寄りまで付与される
  • 対象となるのは「住民票を有する」個人なので、日本国籍を持っていても住民票の無い日本国民(海外に滞在している人など)には付与されない
  • 逆に外国籍であっても、住民票を有する個人(特別永住者など)には付与される
  • 個人のマイナンバーは12桁、法人のマイナンバーは13桁
  • 個人のマイナンバーは本人にしか知らされないのに対し、法人のマイナンバーはインターネットを通じて一般に公表される
  • 公表された法人のマイナンバーは、誰でも利用可能

さて、このマイナンバー制度ですが、いわゆる「税と社会保障の一体改革」の一環として施行されます。ここで言う「社会保障」とは、雇用保険・公的年金・健康保険のこと。すなわち、社会保険労務士がその書類の作成等を受け持つ分野です。

今年10月から個人と法人とにマイナンバーが通知された後、来年1月以降(一部例外あり)に行政機関に提出する書類についてマイナンバーの記載が必要となります。上述したように、社会保険労務士は雇用保険や公的年金等の書類作成を請け負う訳ですから、マイナンバー制の導入に伴う業務の変化をきちんと押さえておく必要が有ります。具体的には、どのような変化が生じるのでしょうか?

社会保険労務士の業務に与える変化とは

内閣官房のホームページにアップロードされている、「事業者向けマイナンバー広報資料」を見てみましょう。実際の資料はこちらから見る事が出来ます。この資料によれば、マイナンバーの記載が必要になることに伴い、様式等が変更される雇用保険関連事務は以下の通りです。

  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届
  • 高年齢雇用継続給付受給受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付申請書
  • 育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
  • 介護休業給付金支給申請書

健康保険・厚生年金保険関連事務で様式等が変更されるのは、以下の通り。種類が非常に多いので、代表的なものをピックアップしてご紹介します。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届
  • 健康保険被扶養者(異動)届
  • 国民年金第3号被保険者関係届
  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届
  • 傷病手当金の支給の申請
  • 出産育児一時金(出産手当金)の支給の申請
  • 高額療養費の支給の申請

これらは、主に事業者が行政機関に提出する書面です。それでは個人の方が年金給付を請求したり、雇用保険の求職者給付(いわゆる失業給付)を受けたりする時の書面には変更が無いのかと言われれば、そんなことは有りません

事業者向けの広報資料からピックアップしたのでこういう形のご紹介になりましたが、個人として請求する年金給付や失業給付についてもマイナンバーの記載は必要となります。それに併せて各種様式も変更される予定ですので、ご注意なさってください。詳細はこちらから。

また、これらの書類を作成する際には、従業員からマイナンバーを取得することになります。その際、利用目的の明示厳格な本人確認が必要です。利用目的は「書類作成」のような抽象的なものではなく、「健康保険・厚生年金保険加入等事務」といったように具体的に特定する必要が有ります

また成りすましを防ぐためにも、本人確認は厳格に行わなければなりません。具体的には、従業員からマイナンバー通知カード+本人確認書類(運転免許証など)の提示を受けることとなります。国民年金第3号被保険者(サラリーマンの妻など)の届出の場合は、従業員だけでなく扶養親族についても本人確認が必要です。

マイナンバーの利用は、税や社会保障、災害対策に関する事務に限定されています。利用目的が取得時に明示した範囲に原則として限られるのは勿論のこと、利用する事務手続きの範囲まで制限しているという訳です。

その点で、個人情報保護法に定める「個人情報」よりも更に厳格な取り扱いが求められています。事業者はマイナンバーについて安全管理措置が必要となり、事業主の委託先・再委託先(すなわち、書面の作成等を請け負う社会保険労務士)についても同様に安全管理措置が求められます。詳しくは、こちらのガイドラインをご覧ください。

今後の発表にも要注目

以上、マイナンバー制の施行と社会保険労務士の業務への影響について考察してきました。上述したように、マイナンバーを利用する事務手続きは税・社会保障・災害対策の関連事務に限られます。ここで気になるのは、社会保険労務士が作成等を請け負うその他の書面について、マイナンバーの記載が必要とされるか否か。具体的には、就業規則作成(変更)届や36協定届、労働保険保険関係成立届や労災給付の請求書面といった書面です。

これについては、内閣官房からは勿論のこと、全国社会保険労務士会連合会からも具体的なアナウンスが無い以上、現時点では推測するより他に有りません。法律の条文や広報資料を読む限りでは、36協定届などの労働基準関係の書類についてはマイナンバーの記載は不要であるが、労災関連の書式についてはマイナンバーの記載が必要であるようです。

雇用保険や健康保険・厚生年金保険等の書面の保管についても注意が必要です。現在でも、施錠できるキャビネットに書類を保管する等の対策を採っている社労士がほとんどだと思いますが、マイナンバー制の施行後は更なる対策が求められるようになるかもしれません。この点につき、連合会等の発表が待たれるところです。

マイナンバー制については、今後も様々な発表がされることでしょう。引き続き動向を注視していき、お客様からの質問に適切にお答えできる準備をしていきたいものです。