労働者派遣法改正案…期間制限の変更は派遣労働者に何をもたらすか

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 労働者派遣法改正案、三度の国会提出

少々古い話で恐縮ですが、今年3月13日、労働者派遣法の改正案が国会に提出されました。与党勢力が衆議院で3分の2以上の議席を有し、参議院でも過半数を占めている現状からすれば、この改正案が通るのはほぼ間違いなし…と言いたいところですが、ことはそんなに単純ではありません。

なにしろこの派遣法改正案ですが、過去に2回も国会に提出されており、そのいずれも廃案となっている代物なのです!しかも、どちらの場合においても法案の成立が確実視されていた情勢でした。条文の誤記や突然の衆議院解散といった不測の事態こそ有ったものの、「実際に可決されるまでは何が起こるか分からない」ことを改めて思い知らされます。

さて、今国会に提出された派遣法改正案ですが、その内容は過去2回に提出されたものと何ら変わり有りません許可制への統一、期間制限における判断基準(業務内容から組織単位ないし個人へ)の変化、派遣受け入れ期間は原則3年間…などなど、既にマスメディア等で報道されている内容と全く同じです。

中でも一番の目玉は、派遣受け入れの期間制限が大きく変わることでしょう。この期間制限の新しい考え方は、過去2回の法案提出の際にも「これまで正社員が担当していた仕事も派遣労働者にとって代わられ、正社員として働く機会が失われる」「格差が固定され、社会が不安定になる」などといった強い批判にさらされました。

しかしこれらの批判記事のいずれも、その内容が抽象的で、その論調に一定のバイアスがかかり過ぎているきらいが有るように感じてしまうのは私だけでしょうか。そこで、当ブログでは、厚生労働省が公開している資料などに基づき、より具体的な例を挙げて「法改正後の派遣労働はどう変わるのか」を検証していきたいと思います。

改正案により、派遣の現場はどう変わるか

今回は、以下のような状況を想定してみます。

  • 派遣元:㈱みんなスタッフ
  • 派遣先:㈱かりそめ銀行 営業部営業課窓口係
  • 業務内容:銀行窓口での端末操作業務(いわゆる「26業務」の一つ)
  • 労働契約期間:期間3か月の有期雇用、更新有り
  • 全労働者の過半数が加入する労働組合(かりそめユニオン)有り

さて、上記の条件でみんなスタッフに雇用され、かりそめ銀行窓口に派遣されている労働者Aさんがいるとします。

現在の労働者派遣法では、派遣労働者が担当する業務の内容により期間制限に係るか否かが判断されます。Aさんが担当しているのは期間制限にかからない「26業務」ですので、みんなスタッフとの労働契約が継続する限り、Aさんはかりそめ銀行の窓口業務をずっと(3年を超えて)続けていくことが可能です

ただし、Aさんを派遣労働者として受け入れてから3年を経過したのち、かりそめ銀行が同じ窓口業務で新しく人を雇い入れようとするときには、まずAさんに対して雇用の申し込みをしなければならないことに注意が必要です(労働者派遣法40条の4)。

労働者派遣法の改正により、これがどう変わるのでしょうか?

まず、派遣労働の受け入れ期間が変わります。かりそめ銀行営業部営業課で、派遣労働者を受け入れられる期間は、業務の内容を問わず3年間に統一されます。3年間を超えて派遣労働者を受け入れたい場合、かりそめ銀行はかりそめユニオンの意見を聞かなければなりません

もっとも「同意を得る」ことまでは求められていないので、かりそめユニオンがたとえ反対意見を表明したとしても、受け入れ期間を更に3年間延長することは可能となります。ただし対応方針等の説明義務は生じることに注意が必要です。

Aさん自身はどうなるのでしょうか。労働者派遣法の改正案では、同一の有期雇用派遣労働者が同一の「組織単位」(企業における「課」が相当する)で派遣就労できる期間は3年間が限度とされています。

すなわち、Aさんがどれだけ継続雇用を望んだところで、かりそめ銀行の窓口業務には3年間しか就けないということになります。組織と違い、有期雇用の個人の場合には延長する手段も有りません。上述したように、同一の「組織単位」には「課」が相当しますので、同じ営業課内の別の係(例えば「お客さまサポート係」など)で働く事もできなくなります

Aさんがみんなスタッフとの間で期間雇用契約を締結し、引き続き派遣労働者としてかりそめ銀行で働くためには、別の課(融資課や総務課など)に派遣されることが必要となります。この場合、みんなスタッフとかりそめ銀行との間で融資課や総務課について労働者派遣契約の締結が必要となることは言うまでも有りません。

もっとも、「派遣労働者として3年間働いたら、後の事は知らないよ」というのでは、Aさんにとってあまりに酷です。この場合、継続雇用を望むAさんに対して、みんなスタッフは以下の対応をとることが求められます

  • 派遣先(かりそめ銀行)への直接雇用の依頼
  • 新たな就業先(派遣先)の提供
  • 派遣元(みんなスタッフ)における無期雇用
  • その他、安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置

上記の期間制限は、派遣元と期間雇用契約を締結している派遣労働者にのみ当てはまります。すなわち、仮にAさんが締結している労働契約が無期雇用の場合は、Aさんは3年を超えて当該窓口業務に就く事が可能です。現行の労働者派遣法における「26業務」と同様の働き方、と言えばイメージしやすいかもしれません。

改正案は派遣の現場を改善するものとなり得るか

以上、仮の例を挙げて労働者派遣法改正案における期間制限の考え方について検証してきました。この改正案においては、派遣労働はあくまでも一時的・臨時的な働き方として位置付けられています。そのため、同一の派遣労働者を同一の職場で長期にわたって働かせられるような、現在の26業務の考え方は採用されていません。その意味では、正社員として働く労働者への配慮がなされていると見る事もできます。

しかし、期間制限にかかってしまうのは有期雇用で働いている派遣労働者だけで、派遣先は人を入れ替えさえすれば(組織単位の制限は有るものの)ずっと派遣労働をさせ続けることが可能な制度、という一面が有る事も見逃せません。

この改正案は、「正社員としての安定した雇用」と「派遣労働者のキャリアアップ」という二つの命題を両立させるものとなり得るのでしょうか。その行方が注目されます。