労働契約申込みみなし制度…派遣先企業と派遣労働者との関係は

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まとめサイト「togetter」より

当ブログにて、5月12日に掲載したエントリー『通知カードの受領拒否でマイナンバーは破綻する!?』。大変光栄なことに、facebookの「いいね!」を数多くいただくことができました。具体的な数字で言うと、このエントリーを執筆している時点(平成27年5月28日)での「いいね!」の数は実に360を超えています

この拙文が皆さまに読んでいただけるようになった経緯は分かりませんが、これほど多くの方々から評価を頂戴したことについては素直に喜びたいと思います。「いいね!」を付けてくださった皆さま、誠にありがとうございました

件のエントリーでは、twitter上で拡散されている或る「つぶやき」を取り上げました。その際に引用したのが、「togetter」というまとめサイトです。

twitter上で日々書き込まれる膨大な数の「つぶやき」を、特定のテーマ(例えば「ブラック企業」や「残業代ゼロ法案」など)毎にまとめ上げる、というのがtogetterのコンセプトのようです。テーマに関連する「つぶやき」を網羅して掲載するのみならず、それらに対して更にコメントを加えることも可能になっています。

筆者はtwitterのアカウントを所持していないので、労働問題についてどのようなつぶやきが書かれているのかほとんど見た事がありません。せっかくの機会なので、試しにtogetterで「ブラック企業」や「派遣法」といったキーワード検索をかけてみたところ、興味深いまとめやつぶやきをいくつか見つける事ができました。

今回のエントリーでは、その中の一つ「労働者派遣法 10.1問題」(以下「10.1問題」)を取り上げます。

10.1問題とは

10.1問題とはどのような内容なのでしょうか。話は2012年にまで遡ります。わが国が民主党政権下に在ったこの年、労働者派遣法が改正され、日雇い派遣の原則禁止グループ企業内派遣の8割規制離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れる事の禁止などが条文に盛り込まれました。

これらの改正点のほとんどは同年10月1日から施行されたのですが、ただ1点だけ、改正法の施行日から3年経過後に施行するとされた改正点が有りました。それが、「労働契約申込みみなし制度」(以下「みなし制度」)だったのです。

みなし制度とは、派遣先企業が以下のいずれかに該当する行為を行った場合に、派遣先企業が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだとみなす制度を指します。

  1. 派遣労働者の受け入れが禁止されている業務(建設業や警備業)で働かせること
  2. 無許可・無届出の派遣元から労働者を受け入れること
  3. 受け入れ可能期間を超えて派遣労働者を働かせること
  4. 名目上は「請負」としながら、実態としては派遣労働をさせること(偽装請負)

この制度のキモは、違法派遣を受け入れている派遣先企業に対し、派遣労働者へ労働契約を申し込んだと「みなす」としている点です。このみなし制度により、当事者間で交わされた契約書等の文言に関わらず、派遣先企業と派遣労働者との間に直接雇用関係を成立させる法的効果が生じます。

企業が派遣労働者を受け入れる原因は様々でしょうが、大きな理由の一つとして「労働者と直接雇用関係を結ばずに自社で働かせることができる」が挙げられます。

解雇権濫用法理を定めた労働契約法16条等により、企業は簡単には労働者を解雇できないのが現状です。しかし労働者派遣契約であれば、その当事者は派遣元企業と派遣先企業に過ぎないので、労働契約法等の制約を受けません。派遣先企業が「派遣労働者の○○さんは不要」と判断すれば、ほぼ何の制限にも掛からず簡単に打ち切ることができるのです。

みなし制度が導入されれば、上記のようなメリットが享受できなくなるおそれが出てきます。派遣元、派遣先の双方に大きな影響を及ぼす制度である事は明白です。この制度の施行日が、2012年10月1日の3年後、すなわち今年の10月1日なのです10.1問題とは、みなし制度の導入に伴って生じる様々な問題の事を指します。

労働者派遣法改正の真の狙いは

以前のエントリーでも取り上げたように、今国会では労働者派遣法の改正案が審議されています。この改正案の特徴の一つとして、「政令26業務と自由化業務との区別を無くし、全ての業務について派遣受け入れ期間を一律3年間とする(ただし簡単な手続きで更新可能)」が挙げられます。

現行法では、政令26業務に該当する仕事(銀行の窓口端末操作やコールセンターのオペレーターなど)であれば、制限無く派遣労働者を受け入れることが可能でした。しかし仮に、みなし制度が導入された上で、これらの仕事が政令26業務に該当しないと裁判所等に判断されてしまった場合、どのような事態が生じるでしょうか。

政令26業務に該当しない自由化業務については、派遣受け入れ可能期間は原則1年間・最大3年間です。それらの期間を超過して派遣労働者を受け入れていれば、それは違法な派遣ということになります。そうなれば、前述したようにみなし制度が適用されることになりますから、派遣先企業と派遣労働者との間に直接雇用関係が成立したとみなされてしまうのです。

派遣労働者が現に携わっている仕事が、政令26業務と本当にいえるか」については、かなり難しい判断を迫られるケースも少なくありません。「専門的で高度な仕事に就けると事前に聞いていたのに、実際には雑用ばかりやらされている」といった労働者からの相談も多く見受けられます。

労働者派遣法を現行通りに放置したままで10月1日を迎えてしまえば、全国で労働契約上の地位確認を求める訴訟が頻発する。そうなってしまえば企業は派遣労働者を受け入れることに及び腰になってしまい、派遣労働者は大量に失業し、派遣会社の経営に大打撃を与えることになる…。

厚生労働省の官僚がこのように啓発している文書が、国会内に出回っているそうです。厚生労働大臣の署名も無い、いわば怪文書なのですが、役人の本音を探る意味では大いに参考になる文書だと思われます。

参考までに、当該文書の画像を掲載します。転載の可否については不明なので、仮にどこからか警告が来た場合は早急に抹消します。併せて、今回のエントリーで参考にしたまとめページのリンクも貼っておきます。論理展開に多少の飛躍が有ったり、やや印象操作が過ぎるきらいは有るものの、全体としては色々と興味深い文章ではないでしょうか。お読み下さる皆様が、それぞれに自身の考えを持たれることが大事だと思います。

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