派遣法改正案…雇用安定措置は派遣労働者の未来を救えるか

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労働者派遣法改正案の問題点

派遣法改正案は重要=塩崎厚労相

塩崎恭久厚生労働相は12日の閣議後記者会見で、野党が労働者派遣法改正案をめぐり、年金情報流出問題の審議を優先するよう求めていることに関し、「年金の流出問題も大事だが、派遣法改正案も多様な働き方を実現するために重要な法案だ」と強調した。その上で「今回は雇用安定措置、キャリアアップ措置も設けている。全体像を見て、政策意図をくみ取ってほしい」と述べ、法案への理解を改めて求めた。(時事ドットコム2015年6月12日 10時46分配信)

労働者派遣法の改正案が成立しようとしています。国会議員の数で劣る野党側は、法案を廃案に追い込むべく必死の抵抗を試みているようですが、それも空しく来週には衆議院で採決される見通しです。

派遣労働者の切り捨てにつながる」として強い批判にさらされている、今回の労働者派遣法改正案(以下、単に「改正案」)。その内容については、当ブログでも過去のエントリーで解説させていただきました。

改めておさらいすると、今回の改正で最も重要なポイントは「3年ごとに人を入れ替えさえすれば、どんな業務(注:建設や警備など、派遣労働者の受け入れそのものを禁止されている業務は除く)でも派遣労働者をずっと受け入れ続けることができるようになる」という変更点です。

現行の労働者派遣法では、受け入れ期間の制限が無い「政令26業務」(一例として、オフィス内での事務用機器操作コールセンターのオペレーターなど)であれば、派遣労働者は何年でも同じ職場で働く事ができます

この「政令26業務」に該当するとして何年間も派遣労働者として働いてきた方々の年齢層は、その多くが30代後半や40代といった中年期に差し掛かっています。一般的には、再就職が非常に困難とされる年齢層です。今回の改正案によれば、そういった方々も、同じ職場で3年間働き続けることで否応無しに職場から追い出されることとなります。

普通に考えれば、派遣労働者にとって「改悪」以外の何物でもない、今回の改正案。現時点では衆議院すら通過していないものの、国会における各政党の議席数から鑑みるに、廃案に追い込める見通しは厳しいといわざるを得ません。

仮にこの改正案が成立・施行した場合、長年にわたって派遣労働者として働いてきた方々はどうなってしまうのでしょうか。職を失い、再就職先も見つけられず、路頭に迷うほか無いのでしょうか今回はその点を検証してみます

派遣労働者のために設けられた措置とは

改正案の根底に在る考え方として、「常用代替防止と派遣労働者保護との兼ね合い」「派遣労働者のキャリアアップの促進」「ルールの明確化」が挙げられます。(こちらの資料を参照のこと)

「常用代替防止」とは、派遣労働はあくまでも一時的・臨時的な需給調整に過ぎず、正社員にとって代わる存在であってはならないとする考え方です。もっとも、派遣労働者からしてみれば、受け入れ先の都合で簡単に雇止めをされてしまうようでは安心して働く事ができません。派遣労働者としての地位の安定と常用代替防止とをどのように折り合いを付けていくか、その着地点を探ることとなります。

また、派遣労働者と派遣元との間では、数カ月程度の短期の雇用契約を何度も更新するケースが多く見られます。そのため派遣労働者は、自分の担当する業務以外のビジネススキルを身につける機会に恵まれず、正社員へのキャリアアップが非常に困難な状況に置かれています。本心では正社員としての安定した地位を望んでいても、それが叶いにくいのが現状と言えるでしょう。

常用代替防止の考え方から観れば、派遣労働者が同じ職場で何年も働き続けることは本来有り得ない事です。現在の「政令26業務」は「専門性が高く、正社員に取って替わるおそれが小さい」という建前の下で認められているに過ぎません。しかし実際の現場では、派遣労働者が本来の業務とはかけ離れた雑用を相当程度命じられるケースも少なくありませんでした。

それらの問題の解決案として生み出されたのが、今回の改正案における「政令26業務の廃止」です。全ての業務において派遣受け入れ期間を3年間に統一することで、正社員としての地位が守られ、なおかつルールも分かりやすくなるという訳です。

派遣元事業主には、派遣労働者に対する教育訓練等が義務付けられます。「派遣期間が終わった後でも、派遣労働者がどこかの職場で働けるようあらかじめ教育しておいてください」ということです。また、派遣元事業主には「雇用安定措置」も義務付けられます。雇用安定措置として挙げられているのは、以下の4つ。

  1. 派遣先への直接雇用への依頼
  2. 新たな派遣先の提供
  3. 派遣元での無期雇用
  4. その他安定した雇用の継続を図るために必要な措置

これらの措置をとることで、たとえ期間3年で雇止めされたとしても、派遣労働者の再就職先はどこかで見つけられるでしょう、というのが改正案の意図するところのようです。

雇用管理措置等の実効性と派遣労働者の今後

しかしながら、改正案のこういった目論みは、現場の実態とあまりにかけ離れた甘い見通しと言わざるを得ません。例えば、雇用安定措置の一つとして挙げられている「派遣先への直接雇用の依頼」。そもそも派遣先からすれば、派遣労働者を受け入れるような業務は、正社員に担当させなくても差し支えない仕事です。そのような仕事を3年間頑張って働いた派遣労働者がいたからといって、派遣先はその人を正社員として雇い入れようと考えるでしょうか?

また、派遣元事業主に義務付けられている雇用安定措置も、あくまで「何らかの措置を施す義務」が課されたに過ぎません。派遣労働者が実際に再就職するまで面倒を見る事は義務付けられていないのです。つまり「雇用安定措置はとったけど、派遣労働者は再就職できませんでした」という結果になったところで、派遣元には何らお咎め無しということになります

教育訓練の具体的な内容については、法案成立後に厚生省から何らかの指針が出される事でしょう。しかしその内容が何であれ、派遣元から教育された程度で現場で通用するほどのスキルが身に付くのかは甚だ疑問です

結論としては、雇用安定措置や教育訓練といった方策は、派遣労働者の確実な再就職を保障してくれるような代物とは到底言えません。それでは、今回の改正案が成立した場合、派遣労働者の皆様には職を失くして路頭に迷う未来しか残されていないのでしょうか?

文章量が当初の想定を超えてしまったので、「中高齢派遣労働者が再就職できる可能性の有無」については日を改めて投稿します。