残業代ゼロ法案…健康管理時間は長時間労働の抑制につながるか

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残業代ゼロ、ついに導入!?

「高度プロフェッショナル制」導入へ 厚労省、労働改革の報告書まとまる 28年4月の施行を目指す

厚生労働省は13日、労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を決める新制度「高度プロフェッショナル制」導入を柱とした最終報告書を労働政策審議会の分科会に提示し、了承された。対象者は年収1075万円以上で、研究開発や金融商品のディーリングなど高度な専門業務に限る。同省は今国会に労働基準法改正案を提出し、平成28年4月の施行を目指す。(Sankei Biz 2015.2.13 20:52)

当ブログでも再三取り上げてきた、いわゆる「残業代ゼロ法案」。制度の導入に向け、更に具体的な動きが出てきたようです。

新しい法律の制定、あるいは既存の法律の改正や廃止は、国会議員もしくは内閣がその案を国会に提出する事によって行われます。このうち、内閣からの法案提出については、以下のような段階を経て行われることになります。

  1. 所管省庁で法律案の第一次案を作成
  2. 1.で作成した案に関し、審議会に対する諮問等を行う
  3. 法案提出の見通しが立てば、法文化の作業を行い、法律案の原案を作成
  4. 3.で作成した原案を内閣法制局で審査
  5. 4.の審査が終了した法律案に関し、主任の国務大臣(例えば厚生労働大臣)から内閣総理大臣へ国会提出の閣議請議が行われる
  6. 5.で閣議請議された法律案が異議無く閣議決定されると、国会に提出される

以上の流れは、実際の手順を大幅に端折ったものになっています。くわしくは、こちらの内閣法制局ホームページをご覧になってください。

現在の状況は、2.から3.に移行する段階と言えるでしょう。各種マスメディアの取り上げ方を見ると、「残業代ゼロ法案」の導入が正式に決まってしまったかのような印象も受けますが、実際には国会での議決はおろか閣議決定すら済んでいません。引用元の記事にも有るように、「厚生労働省の報告書を労働政策審議会が了承した」に過ぎないのです。

労働政策審議会の建議案とは

厚生労働省のホームページには、労働政策審議会から厚生労働大臣への建議案が公開されています。実際の内容は、こちらをご覧になってください。労働政策審議会は、建前上はあくまで諮問機関に過ぎず、その意見は必ずしも行政機関を拘束するものでは有りません。しかし過去の経緯を見るに、諮問機関からの建議は、国会に提出される法律案の内容に色濃く反映されるようです。

例えば、こちらの「有期労働契約の在り方について」という建議。この建議は、いわゆる「雇止め法理の条文化」や「有期契約労働者の無期雇用への転換」等を定めた、労働契約法改正(平成25年4月1日施行)の際に出されたものです。ご覧頂いてお分かりの通り、実際に労働契約法が改正された内容は、この建議にほぼ則したものとなっています

すなわち、現在公開されている建議案がこのまま承認されれば、実際の法改正もほぼこの通りの内容で行われる可能性が高い、ということです。

高度プロフェショナル制度の内容

公開されている建議案の中で、いわゆる「残業代ゼロ」として報道されている「高度プロフェッショナル制度」についてピックアップします。建議案からそのまま丸写ししてしまうと膨大な文章量になってしまいますので、法律や省令の改正を伴う等、重要と思われる箇所に絞って掲載します。

(1) 対象業務
・ 「高度の専門的知識、技術又は経験を要する」とともに「業務に従事した時間と
成果との関連性が強くない」といった対象業務とするに適切な性質を法定した上で、具体的には省令で規定することが適当である。

・ 具体的には、金融商品の開発業務金融商品のディーリング業務アナリストの
業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画
運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等を念頭に、法案成立後、
改めて審議会で検討の上、省令で適切に規定することが適当である。

(2) 対象労働者
使用者との間の書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その職務
の範囲内で労働する労働者であることが適当である。

・ また、対象労働者の年収について、「1年間に支払われることが確実に見込まれる
賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」といったことを法定した上で、
具体的な年収額については、労働基準法第14 条に基づく告示の内容(1075 万円
を参考に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当であ
る。

(3) 健康管理時間、健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置(選択的措置)、面接指導の強化

<健康管理時間>
・ 本制度の適用労働者については、割増賃金支払の基礎としての労働時間を把握す
る必要はないが、その健康確保の観点から、使用者は、健康管理時間(「事業場内に
所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合
計)を把握した上で、これに基づく健康・福祉確保措置を講じることとすることが
適当である。

<健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置(選択的措置)>

① 労働者に24 時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、
かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること。
健康管理時間が1か月又は3か月について一定の時間を超えないこととするこ
と。
4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104 日以上の休日を与えることとする
こと。

<面接指導の強化>
・ 本制度の適用労働者であって、その健康管理時間が当該労働者の健康の保持を考
慮して厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、医師による面接指導の実施
を法律上義務づけることが適当である。
・ 具体的には、労働安全衛生法に上記の趣旨を規定した上で、労働安全衛生規則に
おいて、健康管理時間について、1週間当たり40 時間を超えた場合のその超えた時
間が1月当たり100 時間を超えた労働者について、一律に面接指導の対象とする
を規定することが適当である。
・ なお、本制度の適用労働者に対する面接指導の確実な履行を確保する観点から、
上記の義務違反に対しては罰則を付すことが適当である。

(4) 対象労働者の同意
・ 制度の導入に際しての要件として、法律上、対象労働者の範囲に属する労働者ご
とに、職務記述書等に署名等する形で職務の内容及び制度適用についての同意を得
なければならないこととし、これにより、希望しない労働者に制度が適用されない
ようにすることが適当である。

(5) 労使委員会決議
・ 制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、以下の事項を5分の4
以上の多数により決議し、行政官庁に届け出なければならないこととすることが適
当である。(決議事項省略、筆者注)

(6) 法的効果
・ 以上の要件の下で、対象業務に就く対象労働者については、労働基準法第四章で
定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用除外とする
ことが適当である。

いわゆる「残業代ゼロ法案」ばかりが注目を浴びてしまいがちですが、今回の法改正はそれだけを定めるものでは有りません。その点については次回以降のエントリーに譲ることとして、この項はいったん終了させていただきます。