マイナンバーに関するQ&A…提供の可否と本人確認書類の扱い

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採用内定者からマイナンバーの提供を受けられるか

前回に引き続き、特定個人情報保護委員会のホームページに掲載されているQ&Aの中から、社会保険労務士の業務に関係すると思われるものをピックアップしていきます。

まずは、マイナンバーの提供に関するこちらのQ&Aから。

Q.事業者は、「内定者」に個人番号の提供を求めることはできますか。
A.いわゆる「内定者」については、その立場や状況が個々に異なることから一律に取り扱うことはできませんが、例えば、「内定者」が確実に雇用されることが予想される場合(正式な内定通知がなされ、入社に関する誓約書を提出した場合等)には、その時点で個人番号の提供を求めることができると解されます。

引用文にも在るように、一口に「内定」と言ってもその実態はさまざまです。書面を交付するわけでも無く、単に口頭で採用内定を告げただけでは、労働契約が成立したとまで言えるかどうかに疑問が生じます。

このQ&Aでは、内定者からマイナンバーの提供を求める事ができる条件として「正式な内定通知の発行」と「内定者からの誓約書の提出」という二つの要素を挙げています。これは、過去の最高裁判例において、採用内定を(始期付き)労働契約の成立とみなした事例の判断基準を踏襲したものと推測されます。

以前のエントリーで取り上げたように、事業者が従業員にマイナンバーの提供を求める事ができるのは「個人番号関係事務が発生した時」もしくは「個人番号関係事務の発生が予想される時」です。そして労働契約が成立した時には、それに伴って雇用保険や社会保険における個人番号関係事務が発生することが予想されます。

採用内定が労働契約の成立と同視される状況であれば、その内定者についても個人番号関係事務の発生が予想されるのですから、マイナンバーの提供を求めても差し支えない、という訳です。

人材派遣会社に「登録」した時点での提供の可否

続いて、労働者派遣に関するこちらのQ&A。

Q.人材派遣会社は、派遣登録を行う時点で、登録者の個人番号の提供を求めることはできますか。
A.人材派遣会社に登録したのみでは、雇用されるかどうかは未定で個人番号関係事務の発生が予想されず、いまだ給与の源泉徴収事務等の個人番号関係事務を処理する必要性が認められるとはいえないため、原則として登録者の個人番号の提供を求めることはできません
ただし、登録時にしか本人確認をした上で個人番号の提供を求める機会がなく、実際に雇用する際の給与支給条件等を決める等、近い将来雇用契約が成立する蓋然性が高いと認められる場合には、雇用契約が成立した場合に準じて、個人番号の提供を求めることができると解されます。

人材派遣会社は、大きく二つに分類されます。一つは、派遣会社が常用雇用する労働者だけを派遣先に派遣する「特定派遣事業」。もう一つは、派遣先が見つかる度に、スタッフとして登録している者と労働契約を結んで派遣する「一般派遣事業」です。このQ&Aでは、一般派遣事業におけるマイナンバー提供のタイミングについて述べられています。

派遣会社にスタッフとして登録しただけでは、「個人番号関係事務の発生が予想される時」とは言えません。なぜなら、派遣先が見つからない限り会社とスタッフとの間で労働契約は締結されず、派遣先が見つかるのが何時になるのかはスタッフ登録の時点で分からないからです。

事業者がマイナンバーの提供を求められるのは、派遣先が見つかり、スタッフとの間で派遣労働契約が締結された時ということになります。ちなみに一度提供されたマイナンバーを、派遣労働契約終了後も再使用する事ができるかどうかについては明確な記述が有りませんが、定年退職後の労働者を再雇用した場合を鑑みるに再使用は可能であると推測されます

本人確認書類等のコピーと保管の可否

最後は、マイナンバーの収集と保管制限に関するQ&Aから。

Q.番号法上の本人確認の措置を実施する際に提示を受けた本人確認書類(個人番号カード、通知カード、身元確認書類等)をコピーして、それを事業所内に保管することはできますか。
A.番号法上の本人確認の措置を実施するに当たり、個人番号カード等の本人確認書類のコピーを保管する法令上の義務はありませんが、本人確認の記録を残すためにコピーを保管することはできます。 なお、コピーを保管する場合には、安全管理措置を適切に講ずる必要があります

従業員の新規採用時等、マイナンバーの提供を受ける際には「本人確認」を実施する必要が有ります。本人確認を行う際、通知カードによる「番号確認」と運転免許証などの身元確認書類による「身元確認」の両方を実施する必要が有ります。

番号確認において、従業員などから提示された通知カードの内容を各種用紙に転記する方法を採ることが考えられます。しかしこの方法では、仮に転記ミスが有った場合、その間違いになかなか気づきにくいという欠点が有ります。

そんな時の備えとして、提示された通知カード等のコピーを取っておくのも一つの手段です。この方法を採れば、事業者が「適切な本人確認を実施した」ことの証にもなるので、一石二鳥と言えます。もっとも、通知カードや身元確認書類のコピーは「特定個人情報」になりますから、施錠できる書庫に保管する等の安全管理措置が必要となる事に注意が必要です。

以上、社労士業務に関係が深いと思われるQ&Aをいくつかご紹介しました。マイナンバー制度の開始が刻々と近付いているにも関わらず、同制度に対する国民の理解が十分に深まっているとは言い難いのが現状です。

今後、マイナンバーに関する国民への周知が進んでいくにつれ、実務上の疑問点も更に増えていくことが予想されます。それに伴って、Q&Aの項目も随時追加されていく事でしょう。それらの項目の中に社労士業務と関係の深いものが有れば、当ブログでもその都度ご紹介していきたいと考えています。