ブラックバイト問題、使用者側からの反論

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 ブラックバイトとは

アルバイトとして働いているにも関わらず正社員と変わらない責任やノルマを押し付けられる、空いた時間にシフトを次々に入れられてしまい学業との両立ができない、仕事を辞めたいと言ったら「損害賠償請求するぞ」と脅された…。

いわゆる「ブラックバイト」が大きな社会問題になりつつあります。

ブラックバイト問題が広まるにつれて、労働問題に詳しい弁護士の先生が、労働法の正しい知識を広めるべく学生相手にセミナーを開いたり、学生自らが労働組合(学生ユニオン)を結成する、などといった動きも徐々に出てきているようです。

ニュースサイトや労働相談を扱ったサイトなどを読んでみると、アルバイトに関する相談として、主に学生達から寄せられた悩みの数々を目にします。その中でも、とりわけブラックバイト問題として取り上げられている相談の内容は、以下のようなものが多いようです。

  • アルバイトとして安い賃金で働かされているのに、仕事の内容は正社員とほとんど変わらない。仕事の内容だけでなく、責任も正社員並みに重い。
  • クリスマスケーキやお節料理の販売に関し、達成不可能なノルマを課せられる。それどころか、販売ノルマを達成できないと、自爆営業を強制される。
  • 空いた時間に次々とシフトを入れられてしまい、一日の時間のほとんどをアルバイトに費やさざるを得ない。これでは学業との両立などできない。
  • 仕事を辞めたいと思いその旨を使用者に告げたところ、「損害賠償請求するぞ」「学校や親に言いつけるぞ」と脅された。
  • アルバイト中に職場の備品を誤って破損したところ、「修理代(もしくは損害)の全額を弁償しろ」と脅された。
  • 残業したのに残業代が支払われない。
  • 有給休暇を使わせてもらえない。
  • セクハラ、パワハラをされる。

ざっとこんなところでしょうか。

前述のニュースサイトや労働相談サイト等では、これらブラックバイトに悩む相談者に対し、弁護士の先生やNPO法人の代表者等がアドバイスを送っています。しかしそれらのアドバイスは、いずれも労働者側の立場に立ったものであり、使用者側からの視点というのが欠けているように思います。

労働相談を受けていると、労働者側から聞かされていた内容と使用者側との言い分との間に食い違いが生じる事が少なくありません。労働者の側も、相談の席では自分に都合の悪い事はなかなか言い出しにくいため、いざ逆の立場の人から事情を聞いてみると「聞いていた事と話が違うじゃないか」という事態になることも珍しくないのです。

これらブラックバイトの問題に対し、使用者側からの反論はできないのでしょうか?残業代やパワハラ、有給休暇の問題はすでに当ブログで何度か取り上げましたので、今回はそれ以外の問題について検証してみます。

使用者側からの反論

・アルバイトという立場にも関わらず、正社員と同じ職責を負わされる

労働契約書に書いてある範囲内で仕事を命じており、契約の内容に同意した上で働いているはず。また正社員については、アルバイトには分からないだけでそれ相応の職責を負わせている。待遇の違いには合理的な根拠が有る。

・無理なノルマを課せられ、達成できないと自爆営業を強制される

相応な努力をすれば達成可能なはずのノルマ設定である。達成できないのは当人の努力不足。自爆営業に関しては使用者側が強制することはなく、自腹を切って購入するのは当人が自分で判断して行ったことに過ぎない

・シフトを数多く入れられてしまい、学業との両立が困難

所定時間外にも勤務を命じる可能性が有る事は、労働契約の成立時に説明済み。36協定も締結しているし、時間外労働に対する賃金も払っている。ただし法定時間内であれば、割増賃金まで払う必要は無い。使用者側はあくまで合法的な労務管理をしている。学業とアルバイトとの両立は当人の問題であり、使用者側が過度に責任を負うものではない。

・仕事を辞めると言ったら脅された

→「仕事を辞めたい」というのが合意退職を希望する意思表示であれば、退職日について使用者側の意向を述べても別におかしくはない。「脅された」というのは当人の感じ方の問題であり、こちらにそのような意思は無い。合意退職では無く、民法627条に定める辞職の意思表示ならばそれは受け入れる。

・仕事中に破損した備品を弁償しろと脅された

→給料から一方的に天引きするのではなく、当人の自発的な意思によって損害を賠償するのであれば、それは法律で禁止された行為ではない。勤務中に生じた損害という事情は有るにせよ、使用者側が金銭的な損害を被っている事は事実なので、その賠償をするように求めること自体は特におかしなことではない。

ブラックバイトと呼ばれないために

以上、使用者側からの反論として考えられるものを列挙してみました。

これらの反論には、個々の事情は全く考慮しておりません。そのため、これらの言い分が実際の現場でそのまま当てはまる事はまず無いでしょう。いわば、想定問答集のようなものとして考えていただければと思います。

ブラックバイトの問題に限らず、労使間でトラブルが発生する場合、その根底には労働契約の内容に対する理解不足が有る事が少なくありません。セクハラやパワハラといった問題は論外にせよ、どのような労働契約の下で働いているのかを労使ともに確認することで、ブラックバイトと呼ばれる事態を未然に防げる事も有るのではないでしょうか。