「残業したのに、残業代を払ってもらえない」…労働相談の現場で、多くの相談者から寄せられるお悩みです。書店に行けば、労使それぞれの立場から書かれた「未払い残業代」の書籍が棚に並べられているのを見かけますし、ネット上では「残業代請求」を売りにした弁護士事務所のバナー広告を多く見かけるようになってきています。
一昔前なら、「仕事なんだから少しぐらいのサービス残業は当たり前!」というコンセンサスが労使双方にできていたのかもしれません。しかし、「男は仕事、女は家庭」といった価値観が過去のものとなり、労働者の権利意識が高まりつつある昨今では、もはやそのような考え方は通用しなくなってきています。経営者が「ウチは中小企業なんだから残業代なんかいちいち払っていたら潰れてしまうよ」といって、法律を知らない労働者を誤魔化すことができなくなりつつあるのです。
今後もますます相談が寄せられるであろう「未払い残業代」の問題ですが、実際に残業代を請求する上でポイントとなる論点は何でしょうか?今回は、この点について簡単にご説明します。
残業代を争う際にポイントとなるのは、大きく分けて以下の3つの論点です。
①実際に職場に居た時間は何時間か
労働相談の現場でよく聞くのが、「実際は所定の終業時刻を過ぎても職場に残って働いているのに、上司から『残業の記録を残すな』と指示される」「所定の終業時刻になったら一旦タイムカードに打刻して、その後に残業するよう命じられている」というお悩みです。使用者がそんな命令を出している理由は、日々の作業日報やタイムカードに残業の記録が残ってしまうと、残業代を払っていないことが労基署にバレてしまうから…といったところでしょう。確かに、作業日報やタイムカードの記録は、労働者が何時から何時まで職場に居たのかを判断するうえで重要な参考資料です。しかし、あくまでも「参考」資料に過ぎず、労基署や裁判所の判断は必ずしもそれらに記された時刻に縛られる訳ではありません。今回は詳しく取り上げませんが、某大手ハンバーガーチェーン店の店長が未払い残業代を争った裁判において、裁判所(東京地方裁判所)は、その店長が自らの手帳に記した直筆のメモに一定の証拠能力を認めました。つまり、タイムカード等の記録以外にも、実際の労働時間を判断する参考資料があれば、それらも考慮した上で労働時間を認定するようになってきているのです。労働者が未払い残業代の支払いを求める場合には、使用者側の主張を覆せるような物証、例えば直筆のメモや職場から上司に宛てたメールの発信記録等を残しておくと、「○○時から××時まで職場で働いていた」という自らの主張を裏付ける要素の一つとなるでしょう。
今回のエントリーはここまで。残り2つのポイントについては、次回以降のエントリーでご説明します。