残業代ゼロ法案はどのようにして生まれたか
社労士の端くれとして無関心ではいられない、いわゆる「残業代ゼロ法案」。今日のエントリーでもこの問題を取り上げたいと思います。
そもそもこの「残業代ゼロ法案」、どのような場で、どのような人達が、どういう考えの下で提案したものなのでしょうか?まずはその部分から考察していきたいと思います。
今年4月22日、首相官邸4階の大会議室で「経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議(第4回)」が開かれました。こちらの「議事次第」を読むと、話し合われたのは(1)戦略的課題(労働力と働き方)と(2)歳出分野の重点化・効率化(社会保障)の2点。その内(1)において民間議員から提案されたのが「残業代ゼロ法案」だったようです。
この「経済財政諮問会議」そして「産業競争力会議」。首相官邸を会場としている事、会議の出席者として名だたる大企業の経営者が名を連ねていることから察するに、かなり重要な位置づけの会議で有る事がうかがわれます。しかし具体的にどのような性質の会議なのかは今一つピンときません。そこで、各種資料を引用しつつ、両会議の成り立ち・立場・権限等について確認していきます。
経済財政諮問会議と産業競争力会議、それぞれの性質
まずは「経済財政諮問会議」。この会議は内閣府に設置された五つの「重要政策会議」の一つで、内閣府HPにおいて重要政策会議の中でも一番最初に紹介されています。このことから、重要政策会議の中でもとりわけ重要視されている会議である事が窺われます。
更にこのページによれば、この会議の性質は「経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を十分に政策形成に反映させることを目的として、内閣府に設置された合議制の機関」ということのようです。概要を更に詳しく紹介しているのがこちら、出席議員の名簿はこちらです。
概要をご覧いただいてお分かりのように、「経済財政諮問会議」で審議されるのは「経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項」です。働き方の問題も広い意味での「経済財政政策」と言えない事も無いでしょうが、この会議の性質から察するに「残業代ゼロ法案」との直接的な関連は無さそうです。
それでは「産業競争力会議」を見ていきましょう。こちらのページによれば、この会議は「日本経済再生本部の下、我が国産業の競争力強化や国際展開に向け た成長戦略の具現化と推進について調査審議するため」に開催されるとのことです(具体的な運営綱領はこちら)。
この文章を読んだだけでも、何となく会議の性質はイメージできそうです。しかし文頭の「日本経済再生本部の下」という文言に注目すると、この会議の性質を真に理解するには「日本経済再生本部」についても把握しておく必要が有りそうです。
「日本経済再生本部」を紹介したページはこちら。そこから設置根拠のページに飛ぶと、「我が国経済の再生に向けて、経済財政諮問会議との連携の下、円高・デフレから脱却し強い経済を取り戻すため、政府一体となって、必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現することを目的として、内閣に、これらの企画及び立案並びに総合調整を担う司令塔」として設置されたのがこの本部であると示されています。
そして本部の名簿には、本部長として内閣総理大臣、本部長として副総理、副本部長ないし本部員としてその他の閣僚全員が名を連ねており、いわばアベノミクスの本丸がこの本部であると言えるでしょう。
産業競争力会議の影響力と、民間議員の顔ぶれ
こうして見ると、「日本経済再生本部」の下に開催される「産業競争力会議」は、内閣が執る政策に対して大きな影響力を持つ会議である事が分かります。そして日本経済再生本部が「経済財政諮問会議との連携の下」で設置されていることに基づき開かれたのが、「経済財政諮問会議・産業競争力行動会議」であるようです。
ちなみに「産業競争力会議」の構成員には、内閣総理大臣が指名する閣僚の他、「産業競争力の強化及び国際展開戦略に関し優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が指名する者」が含まれます。いわゆる民間議員とか有識者とか言われる人達です。
こちらの議員名簿を見ると、民間議員としてグローバルに活動する大企業の社長や相談役、大学教授といった方々がズラリと名を連ねています。いわば経営者側の立場の人達ばかりで、例えば連合の会長といったように、労働者側に立つ人の名前は一つも見受けられません。
そのような性質を持つ産業競争力会議において、民間議員の提言とはどのような内容だったのでしょうか。次回以降、検討していきます。