平成25年度 個別労働紛争解決制度施行状況

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厚労省より、個紛解決制度に関する発表

今月30日、厚生労働省は、「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」をHP上で公開しました。私が労基署で基準相談員を務めていた時期の統計であり、非常に興味深いデータです。

私が担当していた基準相談員の仕事と言うのは、賃金不払いやサービス残業に関する相談を受け付け、労働基準監督官の調査を希望する相談者については法違反の申告書を作成するという仕事でした。

個別労働紛争に関する相談を受け付ける相談員としては、労働局所属の「労働総合相談員」という職務の先生方が別におられ、基準相談員が電話や窓口で受け付けた相談の内容が個別労働紛争に該当する場合は、総合相談員に引き継ぐのが原則です。

ですので、必ずしも私自身が実際に助言・指導を行ったりあっせん申請の受付をした訳では無いのですが、同じ職場※で働く総合相談員の先生方からご指導いただいた内容等に基づき、現場の人間としていつくかの私見を述べたいと思います。(※基準相談員と総合相談員とは所属する組織が異なるものの、同じフロアで相談を受け付けているのです)

平成25年度の特徴とは

実際に公開された統計の詳細はこちら

まず目に付くのは、総合労働相談の総件数が、平成21年度をピークに若干とは言え減少傾向にあることでしょうか。ここで「総合労働相談」としてカウントされているものの中には、我々基準相談員の担当する賃金不払い等の相談も含みます。ですのでこの件について述べますと、私の先輩にあたる基準相談員によれば、確かに平成25年度はその前の年度に比べて受付件数が減っているという実感は有ったようです。

とは言え、この事実を単純に「労働問題そのものが減ってきている」とは結び付けられないでしょう。最近では労働相談に力を入れる弁護士事務所も増えてきており、「労働問題は減っておらず、労基署以外の相談窓口を頼る人が増えてきている」という可能性も考えるべきでしょう。私が相談員として働いた実感としては、それほど楽観的には捉えられないというのが正直なところです。

次に気になるのは、相談内容の内訳でいちばん多いのが『いじめ・嫌がらせ』である点。平成24年度に逆転されるまで、相談内容でいちばん多かったのは『解雇』だったのですが、『解雇』の相談が平成20年度をピークに下降傾向にあるのとは対照的に、『いじめ・嫌がらせ』の相談は一貫して上昇傾向にあります。

この現象には様々な考察が可能だと思います。例えば、実質的に解雇を告げられているのと変わらないのに、事業主から「退職届を出せ」と言われるがままに退職届を出してしまった労働者からの相談。最近では、事業主も労働法に関する認識が高まっており、労働者の解雇には様々なリスクが潜むことを理解しておられる方も少なくありません。

そこで労働者との雇用関係を終了する際には、解雇という手段を極力避けて、労働者自らが退職届を出さざるをえないように持っていく事業主が増えてきているのです。相談を受け付ける方としては、労働者が退職願を出している以上『自己都合退職』として処理せざるを得ないのですが、このような相談を本当に『解雇』としなくて良いのか、若干の疑問が生じるところではあります。

『いじめ・嫌がらせ』についての相談が増加傾向にあるのは、現場の実感とも通じるところです。労働者の権利意識の高まりと、「パワー・ハラスメント(パワハラ)」という言葉の浸透とがあいまって、このような現象が起きているのだと思われます。

その一方で、パワハラの加害者として扱われる側の認識としては「この程度のことがパワハラになるのか」「俺が若い時はもっと厳しい事を言われていたのに」等といったものが多く、労使間の認識の隔たりを埋めるのにはまだまだ時間がかかりそうです。

あと一つ取り上げるとすれば、あっせん申請件数の低迷でしょうか。あっせん申請件数は、平成20年度にピークを迎えた後、翌平成21年度までは一貫して助言・指導申し出件数を上回って来ました。しかしながら平成22年度に助言・指導申し出件数に逆転されてからは減少傾向にあり、ここ3年高止まりしている助言・指導申し出件数との間に大きな差を付けられてしまっています

この現象にもさまざまな要因が有るのでしょうが、現場の意見としては、現在のあっせん制度自体が内包する問題によるところが大きいのではないかと思います。

労働局は、相談者(ほとんどが労働者)からあっせん申請を受理すると、相手方(すなわち事業主)に対してそれに応じるよう働きかけます。ところが、この労働局からの働きかけに対して応じなかったところで、相手方には何らペナルティが科せられないのです。

「労使間で自主的な解決を促す」のが労働局の立場とは言え、これではその実効性に対して疑問を感じざるを得ません。あっせんの相手方からすれば、単に無視しておけば良いのですから。最近では、労働審判制度が広く知れ渡るようになってきたことも有り、労働局のあっせん制度以外の解決策を模索する人が増えているのも無理からぬことだと思います。

今後も増加が予想される個別労働紛争

以上、個別労働紛争解決制度の施行状況についてざっと考察してきました。最後に改めて触れておきたいのは、「労働局ないし労基署が受理する相談件数が減ったからといって、職場の労働問題そのものが減ってきている訳ではない」ということです。労働問題はこれから減少していくどころか、むしろ増えていくことが予想されます。

また、政府が検討している労働政策が、残業代ゼロ法案外国人労働者の大量受け入れといった多くの問題を含む政策であることも懸念材料。労働局や労基署といった行政機関、それに社労士や弁護士といった各種士業は、日本の労働問題の為に今後も大きな役割を果たしていくだろうと考えております。

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