日本航空パイロット及び客室乗務員の訴え

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元パイロットと元客室乗務員が日航を提訴

今月3日と5日の両日、2010年大晦日に日本航空(以下「日航」)から解雇(以下「本件解雇」)された元パイロット及び元客室乗務員らが労働契約上の地位の確認(平たく言えば「解雇の無効」ということ)等を求めた訴えに対し、東京高等裁判所が判決を下しました。東京高裁はパイロットと客室乗務員の双方の解雇について地裁の判断を支持し、原告の訴えを退けたようです。

この裁判でどのような論点が争われ、原告と被告がどのような主張を繰り広げていったのか見ていきましょう。今回の高裁判決の元になった地裁判決では、以下の2点が争点となりました。(客室乗務員に対する地裁判決の全文はこちら

  1. 会社更生手続き中だった日航が行った本件解雇に対し、いわゆる整理解雇法理を適用することの当否
  2. 論点1.が肯定された場合、整理解雇である本件解雇が労働契約法16条に該当して無効となるか否か

論点2.の「整理解雇の有効性の判断」にあたっては、以下の四要素を総合的に考慮してその是非を判断することとなります。

  1. 人員削減の必要性の有無ないし程度
  2. 解雇回避措置の有無ないし程度
  3. 人選基準の合理性の有無ないし程度
  4. 解雇手続きの相当性の有無ないし程度

当事者双方の主張とは

上記2つの論点に対し、被告側(すなわち日航)は以下の主張を繰り広げました。

〈論点1.について〉更生手続中の会社における整理解雇の判断は、そのような状況に置かれていない通常の会社におけるそれとは同列に語る事はできず、当然に適法性が認められるべき。また会社更生手続きそのものの性質から、会社清算・破産手続きと同様に整理解雇法理を機械的に適用するべきではない。

〈論点2.について〉仮に整理解雇法理が適用されるにしても、

  1. 会社更生手続下の事業規模の縮小に伴う人員削減策の一つであって、削減目標数の策定も合理的であり、債権者との合意内容を実現するという意味においても、その必要性が高い事は明らかであること
  2. 複数回にわたって希望退職措置をとるなど様々な解雇回避措置を尽くしたうえでの解雇であって、本件解雇措置にはいずれも相当性が有ること
  3. 本件人選基準についても、従業員の貢献度を基本とし、これに被害度を加味するという手法で客観的な基準を設定したものであって、合理性が有ること
  4. 労働組合との間で事務折衝や団体交渉を何度も重ねており、解雇対象者に対しては諸事情の説明を尽くしていたと言えるから、解雇手続きの相当性も有ること 等により、本件解雇は整理解雇の要件を具備しており有効であるというべき

上記の被告側の主張に対する原告側(すなわち客室乗務員)の反論は以下のようになります。

〈論点1.について〉更生手続き下での整理解雇についても、一般の使用者に対する整理解雇法理が適用されるべき。会社更生法改正が審議された平成14年の国会審議においても、その旨は確認されている。

〈論点2.について〉整理解雇の有効性の判断にあたっては、

  1. 日航が史上最高の利益を計上し、リスク耐性が強化されている中、人件費の削減目標も超過達成していたにも関わらず、下振れリスクへの影響度の小さい人件費を必要以上に削減するために断行されたものであるから、人員削減の必要性は認められないこと
  2. 解雇回避措置として、年齢条件や傷病条件の不十分な希望退職措置を実施したものの、労働組合が求めるリフレッシュ休暇等の措置を実施しないまま行われていたものであって、解雇回避措置も不十分であること
  3. 本件人選基準は、不合理な病欠日数・求職日数基準、年齢基準を設定しており、その実質は、労働組合の弱体化を図るための不当労働行為と言うべきであって著しく不合理であること
  4. 本件解雇に至る手続き経緯も、団体交渉その他労使協議においては、既定の整理解雇方針を押しつけるばかりであった上、退職強要や労働組合の争議権行使に対する支配介入の不当労働行為、整理解雇対象者に限って実施した解雇通知後の希望退職の募集によって対象者を不安な状況に置いたまま解雇に至るなど、その手続き経緯は著しく不相当なものであり、被告の用意する退職金や再就職支援等の退職条件もそれほど有利なものではないこと 以上により、本件解雇は整理解雇の要件を満たすとは言えないら、無効であるという他無い。

東京地裁の判断と今後の行方

原告、被告双方の主張を踏まえた上で、東京地裁は以下のように判断しました。

〈論点1.について〉会社更生手続下でされた整理解雇についても、整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において日航が破たんしたという事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである。

〈論点2.について〉

  1. 本件において、人員削減の必要性は相当に高いものであったと認めることができ、本件解雇は、その実施目的、実施規模、実施時期のいずれについても合理的な経営判断の下で実施されたものと認めることができる
  2. 被告が本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して、破格の内容のものであると言うことができるから、被告は、本件解雇にあたって十分な解雇回避努力を尽くしたものと認めるのが相当である。
  3. 本件人選基準は、本件解雇に当たっての人選基準として合理的な内容のものであるという事が出来る。
  4. 本件解雇に当たっての手続的相当性は、十分に備えているものと評価するのが相当である。以上4点を総合すると、本件解雇は、被告の就業規則に定める要件に該当し、整理解雇として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることができるから、有効であるというべきである

以上のように判事して、東京地裁は、原告の主張を全面的に棄却しました。原告はこの判決を不服とし、東京高裁に控訴していたのですが、冒頭に述べたように、控訴審でも判断は覆らなかったようです。

原告弁護団のHPを読む限り、原告は東京高裁の判決を「不当判決」であるとして認めず、最高裁で争う姿勢です。高裁判決に対する弁護団の反論はまだ詳細に呼んでいないので、私も折を見てその主張するところを読んでみたいと思います。

 

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